「お前は綺麗だね」
「ありがとうございます」
「ジキルは君に恐怖を教えて、なぜ愛を教えなかったのかな」
「分かりません」
「ふうん、彼はそれを家族に与えられるべきだと、昔言っていたんだよ」
「そうなのですか」
「よく分からないけど、君には可能性があるんだから、自分でも色々探してみてよ」
「はい」
「ジキルはこっちの研究を根こそぎ利用しようっていうのに、自分の研究はちょっとも教える気がないんだな」
「……」
「君は間違いなくジキルの、いや、世界の最高峰なのに、それを目の前にして何も学ぶものがないってのは研究者としてすごく情けないよ」
「そんなことはありません」
「はは、ありがとう」
「いいえ」
「君は唯一無二でありながら、同時に第二のレルムの前提でしかないなんて、ちょっともったいないな」
「……」
「これが終わったら、どうするの」
「行くあては、ありません」
「……、やっぱり君は生きてるみたいだね」
「アンドロイドは無生物です」
「君ってさ、本当は信じられないような値段で取引されちゃうはずなんだよ」
「はい」
「俺が君を売り飛ばすとは思わない?」
「はい」
「すごい自信ですね」
「IMROの研究を利用せずに科学の道から外れたあなたが、そのようなことをするとは思えません」
「……」
「しかし、もしそうなったとしても、それは仕方のないことです」
「……」
「あなたは自由にご自分の研究をしていいのです」
「……」
「どうされましたか」
「いや、うん」
「……」
「君はやはりジキルの作品だ」
いい学校の先生って長い時間の中でさ、なんていうか、独特の空気ができてくる
やさしさだけではない
厳しさだけではない
妥協もある
限界もある
慣れることはない
いつも何かを取り込む
困惑もない
威厳はなくていい
家族ではない
失望はしてない
期待もしてない
なんか分からないけど、無償の愛みたいな、何かは分からないけど