【童話】教会のあくま
はじめてちゃんとハッピーエンドで短編書きました。
神さまが大好きな色ガラスの教会の人々と、とあるあくまのお話。
追記からどぞー
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主に散文とかピアプロ用の歌詞とか置き場です。小説もたまに書くよ。只今サイトから移転作業中。
泣き虫あくまは金の目に
緑ののっぽの寂しがり
口はあるけど声はなく
真っ赤なお手てを下げている
どこかの国のいつかの時間。名無しの街の裏道に、新しい教会が建ちました。
新しい教会はちょうどお家三つ分の大きさで、あまり広くはありませんでしたが、とてもとても大きな色ガラスの窓がありました。神さまはきっと虹を渡っていらっしゃる。この街の人たちはそう考え、毎日まいにち・・・とはいかずとも、七日にいっぺんは新しい教会の窓をぴかぴか光るほどきれいに掃除していました。
ある日のこと。
すっかり街の空気が身についた教会に、ボロを着たこどもがやってきました。
こどもはずいぶん寒がりなのか、冬でもないのに何枚もなんまいも、古い切れ端を体に巻きつけています。かわいそうに思った街の人々は、せめて屋根のあるところで眠らせてあげようと、教会の隅の一角、いちばん日当たりの良いところにまくらを置いておくことにしました。
七日にいっぺん、とは言いましたが、みんなが同じ日に掃除していたわけではありません。神さまは大好きだけれど、がんばっているところを見られるのはなんだか恥ずかしい。ちょっぴり照れ屋な街の人々は、交代で教会の掃除をしていました。とくに順番を決めてはいませんでしたが、不思議と誰かと誰かが顔を合わせることはありません。日にいっぺんしか掃除していないのに、どうしてこんなに教会の窓はぴかぴかなんだろう、きっと神さまはきれい好きなんだ、ぴかぴかの窓が気に入ってくださってるんだな。そう思ってみんな掃除するものですから、外の町から来た人は、この教会はあまり人が入っていないみたいだから、この街の人はきっと神さまにお祈りしない人たちなんだな、とちょっと怒っているくらいです。神さまのために掃除ばかりして、あんまりにも自分のお祈りを忘れてしまっているので、あながち間違ってはいないかもしれません。
さてさて、すっかり教会で寝泊りするようになったこどもでしたが、ひっきりなしに街の人々が自分にかまってくることにびっくりしていました。おやつの残りを放って寄こす自分より小さな女の子や、大きくなって着られなくなった、残念だなあ! などと大きな声で言いながら上着を目の前に落としていく男の人。しわがれた指でさも愉快そうにこどもをいじくったかと思えば、いつのまにか傷薬を塗りたくってくる老いた魔女。いかにも荒っぽいふるまいで、傷だらけの巨大な棒を振り回しながら、こどもにも聞こえる声で娘におもしろい物語を語って聞かせるお父さん。みんなけっしてこどもに話しかけたり、目を合わせたりしませんでしたが、いつもちらちら気になるそぶりで、何かしらこどもに与えようとするのです。
こどもはボロしか持っていませんでしたから、ひどい言葉や乱暴な扱いを受けたことはあっても、こんなに物をもらったことはありませんでした。
やがて教会が新しい教会ではなく、ただ教会と呼ばれるようになって大分経ったころ。隣の街の教会で、金の冠が盗まれる大事件が起こりました。
隣の街の教会では、毎日まいにち、朝から晩まで、金の冠にお祈りをするきまりになっていました。そんな大事な冠が盗まれた、とってもとっても大変だ! その街の誰もがそう言って、とても偉いひとが他の街の調査に乗り出したくらいの大事件です。
やがて、隣の街の偉いひとが言いました。
「君らの教会のこどもがあやしい! 捕まえろ! 」
街の人々は首をひねるばかり。だって、教会に行くたびに、こどもは隅で眠っていて、ボロ以外に何か持っている様子はありません。日の一番当たるところで、時折唸って眠るのに忙しそうです。とてもこの街の外へ行って金の冠を盗むような暇があるとは思えません。
街の人々は、そう隣の街の偉いひとに話しましたが、いっこうに聞き入れてはくれません。むしろ、「この街の人々はなんてバカなんだろう! 」とばかり怒鳴って、こどもを無理矢理教会から連れ出しました。
ボロばかりを着たこどもは、悲しくてかなしくて仕方がありません。けれどしようのないことだ、と受け容れるしかありませんでした。疑われるのは慣れっこです。実際、金の冠なんてすごいものを盗んだことはなくても、パンのいくつか、古着のいくらかをこっそり持っていったことはあったのですから。
だって自分はボロしか持たないもの。色ガラスのお日さまの光りも気持ちの良いまくらも、もともと自分のものではありません。それをあの気の良い街の人々に返せただけ、そう悪い出来事ではないのかもしれない。そう考えたこどもは、そのまま隣の街の裁判にかけられることになりました。
「静粛に! せいしゅくに! 」
そこら中で野次や暴言が飛び交っています。中には言葉だけではがまんできず、欠けたお皿や棒切れなどを投げつけるひともいます。ぐるりと隣の街の人々が取り囲む真ん中で、ボロを着たこどもが大きな杭に縄で括りつけられています。
「これより、審議を執り行う。罪状を述べよ」
「はいっ、このこどもは、聖なる教会に居ついたばかりでは飽き足らず、我らが神の金の冠を盗んだのです! 罰しなければなりません! 」
そうだそうだ、なんて悪いやつだ。すぐに罰を! うんと重い罰を与えて! 偉いひとが言うと、隣の街の人々は口々にそう言いました。
裁判長はうんうんと頷くと、さっそくこどもを罰しようと、処刑人を呼んだときです。
ずどーーーーん ! ! !
何かが爆発し、もくもくと白い煙が湧き上りました。裁判を眺めていた人たちは大パニックです。しっちゃかめっちゃか辺りを散らかしながら、方々に逃げようとします。けれどそれを更にぐうるりと取り囲んだ人々に阻まれました。
こどもはびっくりしました。だって、それはあの色ガラスの教会の街の人々だったのですから。
「異議だ! 異議を申し立てる! 」
「いぎ! いぎ! 」
「弁護人は俺達だ! 」
きっと街中総出で来たのでしょう。ぴかぴか光る色ガラスの教会の街の人々は、いろんな格好で、自分なりの一番良い服を着て、裁判に参加しました。
大きな体をスーツに押し込んだ男が似合わないめがねを押し上げました。
「被告人の罪は金の冠を盗んだこと、だったな? 」
「いかにも。大罪である」
「証拠は? 」
「ふん、あんなボロ着た薄汚いこども。あいつほど怪しいやつはいない。それでじゅうぶんだ。」
「そんなら話ははやい。すぐに罰しよう」
裁判長は満足そうにうん、うん、うんと頷くと、処刑人に指示を出そうとしました。しかし、処刑人は裁判場に入ってこれません。モップやはたきを持ったたくさんの子どもたちにつつかれて、とてもではありませんが、処刑用の首切り斧を持っていられなかったからです。
裁判長は似合わないめがねの男を睨みつけましたが、男はにやりと笑うばかりです。
「けれど罰するのはこの街じゃない。俺達の街で、だ!」
色ガラスの教会の街の人々は、こどもを大きな杭からおろして、担ぎ上げました。
「こいつはなんだ! 」
「「「「罪人! 罪人! 」」」」
「罪状は? 」
「あたしの食べ残したおやつを取った! 」
「私の古い上着を盗んだわ! 」
「あだしの薬を勝手に使っだよ! 」
みんな口々に、こどもの罪を叫びます。男はうんうん頷いて、「しかも俺のかわいい娘のとっておきの物語を盗み聞きしやがった」とくやしそうに、ちょっと笑いながら言いました。
「金の冠なんて目じゃねぇ!
こいつは神さまお気に入りの、ぴかぴかの色ガラスのお日さまを独り占めしやがった!
こいつはあくまだ! とびっきり悪いあくまだ! 」
「「「「あくま! あくま! 私たちのあくま! 」」」」
神さまが大好きな街の人々は、こどもを担いで、そのまま自分の街に帰りました。あくまのこどもは括り付けられて真っ赤になった手のひらで、日の入りの金を映した目を覆って、大きな声で泣きました。けれどみんな知らんぷり。敬虔なる神の子は、あくまの声なんて聞き取りません。ボロボロの緑の服でがんばって涙を隠そうとするこどもといっしょに、これは早く罰せねば、と教会のまくらのもとへ急ぎました。
どこかの国のいつかの時間。名無しの街の裏道に、色ガラスの教会が建っていました。
色ガラスの教会はちょうどお家三つ分の大きさで、あまり広くはありませんでしたが、とてもとても大きな色ガラスの窓がありました。街の人々は、神さまはきっと虹を渡っていらっしゃると言って、いつもその大きな色ガラスの窓をぴかぴかにしています。
その色ガラスの一番日当たりの良いところでは、あくまだって気持ちよく眠るしかなく、街の人々は寂しがりなあくまを見張ろうと、教会は毎日まいにち、とてもにぎやかであるのでした。
性 別 | 女性 |
職 業 | 大学生 |
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