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【歌詞】歯みがき島のクロムウェル【セリフ有】

【小説】つま先に魚

うだる暑さにまどろみながら、一通り他愛も無い夢の続きに思いを馳せている時だった。瞳越しの会合。眼鏡を外しぼやけた視界の中で、彼は泳いでいた。ぱくぱく、ぱくぱく。

(やっとお目覚めかい)
そうね、ずいぶん日が落ちてしまったわ。

生白い唇を横向けながら私に語りかける彼。ぶれたヒレを蛇腹のアコーディオンのように開いたり閉じたりしながら、忙しなくもゆっくりと泳いでいる。

(ねぼすけも大概にしなよ)
お説教のつもり?今はかんべんしてよ。
(戻れなくなるよ)
…そうね、戻れなくなるわね。

泡を吐かない彼の口。そこから紡がれる言葉のかけらはいつだって非生産性なもの。それはたゆたう麻痺した時間感覚に、言いようのない感傷をもたらすだけだけれど、もてあました熱にはいつだって丁度いい温度だった。

(さ、起きておきて)
もう少しいいじゃない。
(もう充分だろ)

無意識が掛けてきた眼鏡の中に、彼はいなかった。
映るのは丸めた身で眺めていたつま先。湿り気を帯びた足はひどくけだるげで、ぐっぱぐっぱと握るつま先からはもう何も語りかけてこなかった。
そっと引き寄せてみる。無駄に柔らかい私の体はとても素直。触れる吐息を足裏に感じながらそのまま舌を這わせてみた。しょっぱくて、くすぐったくって。
やけに熱い自分の肉に酔いながら、「彼」にキスした。

【散文】プライド

色を捨てた手
押し付けた刃先に
辿るように、力を預けた


溢れる涙は
他人事のように冷たくて
反比例して流れる血
焼けるようにって言葉がピッタリだと思う

後悔しないと決めても
痛みには弱くて
すぐ、音を上げそうになった


口に含んだ血糊
喉に絡まる温度と一緒に
飲み込んだ言葉

空気を伝うことなく
還る響きに酔いながら
また手に力を込めた


忘れられないのなら
いっそ痛みに変えてしまおう
留めることが出来ないのなら
流れに任せてしまいなさい


落としたクツは拾わなくちゃなんて誰が決めたの?


壊れたモノは壊れたままに

どんなに逃げても
全部私のモノだから

含んだ血は甘かった

【散文】アイしています

アイしています
アイしています

泣き叫ぶほどに
顔を歪めて
髪を振り乱すほどに

アイしています

例えば夏の眼を突き潰す日差しのように
例えば冬の凍てつき切り裂く風のように

ただただ自分に流されて
思うままに
突きつけるままに

ひたすらに叫びます

溢れるのは
求めるでなく
衝動なのです
衝撃なのです

想うのではなく
思うのです

こんなもの
アイとは言わずして
なんとよぶのでしょうか

アイしています
アイしています


ただそのままに
アイしています

【散文】青のnostalgia

ふと仰ぐと
翳りのない、青

毎日同じ道を歩いてるはずなのに
雲一つないこの大空が
いつもの箱庭的なそれと違って
果てしなく 広く
どこまでも
飛んで行ける気がした


いつも何も考えずに
ただ、ぼぉーっと歩いてるのがもったいなく思えて
自然と駆け足になっていた

まだ空っぽの鞄
白紙のノート
真新しいシャーペン
ピカピカのローファー
一緒に背負ってたのは
眩いくらいの不安


けれどそれは嫌なものじゃなくて


少なくない
期待と希望が散りばめられた
小さい頃に大事に持っていた
光に透かし
そっと眺めてたビー玉みたいで

誰かに見せたいような
どこかに隠しておきたいような
くすぐったい感情だった



いくつか季節は巡り
ビー玉には色が混じり
あの時の透明さは持ち合わせなくなったけど
光を変えた不安の中で
いつまでも想いはこだまする

それはただの郷愁にも
似たものだったかもしれない

手に一杯すくった
数も色も増えたけれど
これだけは埋もれることなく
消えてしまうこともなく

あの眩さは残らず
ささやかな灯りとなってしまったけど

背負っていることに
けして変わりはないから

今はただそっと
目を向けることを忘れないで、と

願ったのは誰だったかな
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プロフィール
一色あるとさんのプロフィール
性 別 女性
職 業 大学生