2012-3-6 11:01
うだる暑さにまどろみながら、一通り他愛も無い夢の続きに思いを馳せている時だった。瞳越しの会合。眼鏡を外しぼやけた視界の中で、彼は泳いでいた。ぱくぱく、ぱくぱく。
(やっとお目覚めかい)
そうね、ずいぶん日が落ちてしまったわ。
生白い唇を横向けながら私に語りかける彼。ぶれたヒレを蛇腹のアコーディオンのように開いたり閉じたりしながら、忙しなくもゆっくりと泳いでいる。
(ねぼすけも大概にしなよ)
お説教のつもり?今はかんべんしてよ。
(戻れなくなるよ)
…そうね、戻れなくなるわね。
泡を吐かない彼の口。そこから紡がれる言葉のかけらはいつだって非生産性なもの。それはたゆたう麻痺した時間感覚に、言いようのない感傷をもたらすだけだけれど、もてあました熱にはいつだって丁度いい温度だった。
(さ、起きておきて)
もう少しいいじゃない。
(もう充分だろ)
無意識が掛けてきた眼鏡の中に、彼はいなかった。
映るのは丸めた身で眺めていたつま先。湿り気を帯びた足はひどくけだるげで、ぐっぱぐっぱと握るつま先からはもう何も語りかけてこなかった。
そっと引き寄せてみる。無駄に柔らかい私の体はとても素直。触れる吐息を足裏に感じながらそのまま舌を這わせてみた。しょっぱくて、くすぐったくって。
やけに熱い自分の肉に酔いながら、「彼」にキスした。
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