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【僕たまシリーズ】僕らは卵でできている

ある日、夢をみた
真っ白な箱に閉じ込められている夢だ
箱の中はとても狭く
僕は手足を丸めなきゃいけなかった
けれど、とても居心地が良い


よくテレビとかで言ってる、胎児の記憶ってやつかな
そう目が覚めてから考えた
たしかに居心地はよかった
けど、ひどく不安もあったんだ


脆い足場にたっているような
とても繊細なガラス玉に入っているような
そんな感覚がした
何故だか懐かしかった


その夢はたまに僕を閉じこめる
ある時は眠るときに
ある時は風呂なかで
ある時は誰かと戯れるときに


そして必ず、泣きたくなるんだ


僕は思う
僕らは卵でできているんじゃないかって
よく人は鳥に例える
羽ばたけ、とか
巣立つ、とか
言うけれど
ほんとうは生まれてすら
いないのかもしれない


僕らは卵を持っていて
それは一つじゃなくて
それらがそれぞれ孵化する
そのたびに、僕は生まれるんだ


ぶつかって、暖めて
落ちて、拾って
やがてひび割れてゆくように
ぐしゃぐしゃになるように


僕らは僕を生むために生まれるんだ


【僕たまシリーズ】僕らは空で泳いでる

いつもと同じ道の途中
ふと気づいた空の色
何気なく見上げたはずだったのに

いつのまにか
目が離せなくなったんだ
とどきそうで、とどかなかったその色

何故だろう
笑い出したくなるくらい切なくなったんだ


その空は高くて、遠くて
でもとても低く、身近に思えた
流れている雲が作る影が
不思議と可笑しかったよ


夢に見るほど欲しがったお月さま
たとえ手にはいることはないと教えられても
どうしても欲しかった

隣に立っていたあの子も同じ様子で
その子はお日さまを欲しがった

右隣の子も
後ろの子も
いつもついて歩いた目の前の子も

みんなみんな欲しがったんだ
みんなそんなものが欲しかったんだ



僕らは一生懸命に泥をすくって
水底にあるはずのものを探してる
空を映した水は青くて
まるで空の中にいるみたいだ


ある人が僕達に尋ねた

「何を探しているのですか?」

誰も笑って答えやしない

「何を欲しがっているのですか?」

みんな口をそろえて
「あれが欲しいのです」
そう言って指差した
僕もそうだった

その人は去り際に言う
「君達は空を泳いでいるのですね」

意味がわからない
みんなキョトンとして、また水底をさらった
もちろん僕もだ


いくら考えても理解できなかった
今もわからない


けれど羽ばたく鳥を見て思ったのは
僕らは飛んでるつもりだった
それだけ


結局あの一言は僕の頭を痛くしただけで
本当の意味なんてあったのかなとさえ思う


でも何となく、忘れられなかった




僕らは鳥のふりした魚で
今も泳いでいるのかもしれない

【僕たまシリーズ】road

 

無くした鍵を探す旅にでた

首に掛けた鎖
繋がってるのは鍵穴だけで

開けた英雄に憧れて
嵐の中へ飛び出したんだ


冷たい風も ぬかるむ土も
全てが僕の邪魔をしているみたいで

昔 読んだ絵本の旅人みたいに
必死で鎖を握り締めた


それでも信じて歩いたんだ
鍵は「見つかる」と思ってたから


ある日、一休みに一軒家を訪ねた

とてもボロくて
ちょっと傾いた、小さな家

正直 居心地は悪そうだ

小屋とも呼べるその家で
出迎えてくれた
ふさわしい小さな主人


夜風さえ凌げるならば、と
ため息混じりに一晩を過ごした


主人は僕に食事を出してくれた
案の定、かなり粗末なもの

無いよりはマシだと
僕は固いパンを水っぽいスープで流し込んだ


僕が食べ終わるまで
主人は祈っていた

食事前の祈りとしては随分長い


主人がゆっくりと
スプーンを置くのを見計らい

僕は問うてみた

「何故そんなにも祈るのですか?」

主人は微笑んだ


勢いにまかせて質問を重ねた

何故、ここに住んでるのか
何故、こんな暮らしをしているのか


主人は黙って微笑んだままだ


翌日、僕は家を出た

主人は手土産だ、と僕の手を握る


包まれた三枚の金貨


驚く僕に主人は言う

「鍵は見つけるものなのです」


僕が口を開く前に、主人は家の中へ引っ込んでしまった


何年か経って
僕はあの家を訪ねてみた

あるのは真新しい家で
住民は何も知らないという


僕は今も鍵を探している

【僕たまシリーズ】僕らの手のひら

いつも思う

たとえばどんぐり雨の降るとき
僕らがたくさんたくさんがんばって
カゴいっぱいにしても
すぐに虫に食われてしまう

一番乗りで探検した木の葉の絨毯も
次の日には
どこかのおばさんの箒に取っ払われてしまう


つやつや光るどんぐりも
踏むとカサカサ音がする小道も
あっという間に変わってしまう


大きなお休みに父さんと出かけた
母さんの小瓶みたいな、ガラス張りの植物園

透明な城のなかはいろんな色で溢れていて
空の見える天井の下
緑が一斉におじぎしているみたいだ


そこでは植物と一緒に鳥や蝶が放されていて
飛び回る極彩色に目がチカチカする


職員さんと話し込む父さんから離れて
僕は蝶を追いかけた

いつまでも届かない追いかけっこ
そのうち蝶も見失った


つまらなくて戻ろうとして
僕は何かに躓いた
土はふかふかしていたから痛くはない
でもやっぱり気分は悪かった


腹が立つ

目の前にあった草を引き抜いた
小さなスズランみたいな花

その影に、花びらが落ちていた

不思議だ

ここら辺にはこんな色の花なんか咲いてない


拾ってみる
指につく蒼のプリズム
蝶の羽だ

半ば崩れて
ポロポロと鱗紛が剥がれる
凄く綺麗で、泣いてるみたいだった


僕は宝物を見つけた気になって
そっとポケットにしまった

誰かに自慢したくて
すぐに父さんの所へ走った


父さんに怒られてから
ポケットの中に手を突っ込む
けれど羽は壊れてしまい
残ったのは蒼のプリズムだけだった


何も言わない僕に父さんは笑った
そんなものさ、だなんて
僕はなんで笑うのか分からなかった


手を繋いで帰る
父さんは物知りで、帰り道の間
蝶や鳥について話してくれた


あの蝶はとても珍しいんだよ
けれどあそこでは卵から育てているから
滅多と見られないわけじゃない

けれどね、
父さんは言う

君が見つけた蝶は君のものなんだよ
手に入れたことじゃない
見つけたのは君だけだからさ


僕はよく分からなかった
父さんの笑顔もわからなかった

なんとなく僕も笑った
理由はないけれど


すごく、大切なことなんだと思えた

【僕たまシリーズ】僕らと卵

僕らは卵でできているけど
割ったたくさんの卵の殻
彼らはどこへ行くのだろう


僕らはボールを持っていて
割れた殻を
一つ二つ、ボールに込めていく

それは重かったり軽かったり
形も大きさもバラバラで

たまにジャマになる
けど、絶対に捨てやしないんだ

ボールの中は
カラカラ、カラカラ
日に透かした風船みたい

大事に取っておきたいけど
ほっとくとボールは固まってしまうから

たまに構ってやるんだ

振り回したり
転がしたり
投げつけることだって、あるかもしれない

けど、ぶつけた分だけ
叩いた分だけ
中の殻は砕けてゆく

崩れたかけらは砂になり
ボールの中に降り積もる


僕らはいっぱいになったボールに満足するけど
溜まった殻
時が経つと、ボールは弾けちゃう

それはとても寂しくて
たまに痛かったりする
けど、けして悲しいことじゃなくて

時間をかけた砂は
七色にきらめいて
僕らの果てしない空の中

僕らの卵の梯子になるんだ


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プロフィール
一色あるとさんのプロフィール
性 別 女性
職 業 大学生