伝説の男がいた。
その男は必死こいて働いて、やっと家を建てることになった。
男が今住んでいる家は、男の祖父にあたる人が建てた家だった。
計算したら江戸時代から立っている家だった。
自分の家が古いことがその男のコンプレッスクだった。
家を立て替えるにあたり、一つ懸案が出てきた。
古い家で何年も飼っている猫だ。
新しい家になったら爪をたてられて柱を傷つけられたくない。
おれが必死になって建てる家だ。
男は猫を捨てる決心をした。
ある日男は、小学4年生の息子を呼んで、猫を捨てにいくと告げた。
息子も一緒に連れていった。
捨てる場所にいくまで、猫は初めて乗った車に興奮し、ニャーニャーと鳴いていた。
猫は丁度、仔猫を産んだばかりで4匹ほどの仔猫といっしょに段ボールに入れられていた。
うるさいから猫の入っている段ボールを閉めろ!
男は息子に命令した。
捨てる場所につくと男は息子に言った
「捨ててこい!」
息子は段ボールを持って男から促された場所に捨てた。
猫が段ボールから出てきて、息子を追いかけた。
箱の中では仔猫たちがニャーニャーと鳴いた。
親猫は息子を追うことを止めて、仔猫の元にもどった。
その間に息子は男の車へ戻った。
男の車は逃げるようにその場を立ち去った。
息子は一生、
車の中の猫の必死な鳴き声と顔
追ってきた親猫
仔猫のもとに帰っていった親猫
のことが忘れられなかった。
男の息子は猫が大好きだった。
父親の不可解な命令に従ったが、そのことが一生の傷になった。
大人になってから、
ごめん、ごめん、みけ(親猫の名前)、ごめん。
といいながら泣いたこともあった。
この話は実話。男は僕の父親、息子は僕のこと。