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常【きせきのはて】




笹塚さんお誕生日記念夢小説
百合イコール夢主ちゃんです








関東地方に梅雨明け宣言がなされついに夏本番がやって来てしまった
梅雨真っ只中の間でも異常な程に蒸し暑くて過ごしにくい日々が続いていたのに、最近はどんどん気温が上がり増すばかりの熱気に包まれている
「一日中付けっ放しの方が電気料金安いってネットで言ってたもん…」を言い訳にクーラーは付けっ放しにしている
実に快適だ
ソファーの背もたれにもたれ掛かって伸びをする
朝食時の食器は片付けたし洗濯物もサンルームに干した
折角の何の予定もない休日なのだからしばらくのんびりと過ごそう
そう思って昨日近所の本屋で買ってきたお気に入りのファッション雑誌でも読もうかなと立ち上がると、ソファーの後ろでクーラーが効いているとはいえこんな暑い中延々と腹筋をしていた衛士と目が合う

「なんかさ、大丈夫だって分かってるんだけど傷口開かないか心配なんだよね、そんなにずっと腹筋されると」
「…ちゃんと縫ってあるし退院して三ヶ月経ったんだから平気だろ」
「分かってるけどさぁ…」
「意外と心配性だよな、百合」

付き合う前と違ってと暗に匂わせて衛士は腹筋を続行する
何を目指してるんだお前は
既に全身筋肉と言う名の鎧を纏っているじゃないか
いや分かっていますよ、シックスとの戦いで意識不明の重体に陥り病院に搬送され緊急手術に長期入院
退院したとはいえ以前と全く同じような生活ではなくなってしまった
捜査一課から移動にはならなかったが今は全快とは言えないので専ら後方支援に徹して現場にはあまり出ていないらしい
残業や宿直もなくいわゆる九時五時の仕事となるとどうしたって物足りないし周囲に迷惑をかけていると気に病んでいるのだろう
誰より真面目で優しい人だもの
でも私の気持ちも分かって欲しい
家が隣同士の親友のお兄さん、物心つく前からの憧れの人、叶わないと思っていた初恋の相手、振り向いてくれなくて良いから幸せになって欲しい人、側にいて支えたい掛け替えのない人
どんなに言葉を探してもしっくりくる丁度良い表現が見付からないくらい長い時間を共に過ごした相手なのだ
分かってるのかな、どれだけ貴方が大切なのか
まさかこんな穏やかで満ち足りて幸せな未来が私達二人に訪れるだなんて想像もしていなかったんだよ
復讐に心を囚われていた貴方に好きと伝えて許される日が来るなんて思わなかったんだよ
分かってるのかな、幸せで涙が溢れるだなんて生まれて初めてだったんだよ

「…お前はまた何で泣くかな」

衛士は呆れ顔で私を見ている
知らないよそんなの、だって幸せなんだもん
貴方がすぐ側にいて抱き締めてくれる
これ以上何を望むというのだ

「どうせ心配性で口うるさくてすぐ泣く女ですよーだ…料理も上手じゃありませんよーだ」
「いいよ、そのままで」
「よくないでしょ、要望は言い合おうよ」


衛士は私の背中を優しく撫でる
この人の長くて逞しい腕は昔より温かくなった気がする
心を蝕み続けた底のない闇が消え去ったからだろうか
いや、消える事はないのかもしれない
それでも彼は生きる事を選んでくれた

「今こうやって穏やかに生活出来て、百合と一緒に居られる。これ以上何もいらないよ」

百合さえいればいいんだからと困ったような表情で衛士は笑った
彼はあれからたまに笑うようになった
それはとても喜ばしい事なのだが、どうしてもまだ消えてしまいそうな儚い笑顔に見えてしまう
そんな顔して欲しいわけじゃないんだよ、私
相変わらず分からず屋だなぁ
少し伸びた前髪に触れる

「違うよ衛士、これからは欲張りに生きよう
今までは諦めてばっかりだったけど、そんなのは終わりにしよう」

昔だったらこうやって彼が生きている事すら高望みだった
けれどもう違う
私達は変わって行く
変わって行こうと決めたのだ
未来を夢見て、人間らしく、どんどん進化して行く
ひとりきりでは出来なかった事も、きっと二人なら出来るから

彼は少し驚いたように彼女に視線を寄越して、それからまた笑った
そう、進化する
彼女の下手な料理も、彼の下手な笑顔も
そうやってどんどん変わって行って、その中で変わらない愛を捧げるのだ
悲しい恋はもうどこにもない
あるのは銀河何個分かの果てに手に入れた未来だ


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