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馬鹿な女の話

『なんなら剣でこの国を統一してやりましょうか』
その言葉に隠しもしなかった自信に嘘は一つもなかったんですよ、いや本当に
貴方はまた鼻で笑うだろうけど


草木も眠る丑三つ時にした胸騒ぎ
夜中になんだか切なくなって好きな人の部屋を訪ねるの、だったらとってもロマンチックで乙女チックなんだけれど、そんな可愛らしい意味の胸騒ぎではなかったんです
だから翌日の出陣に向けて眠る貴方を叩き起こした事はどうか許してくれませんか

『私が死んだらどうします?』

もしもですよ、と前置いて言った私に、やっぱり貴方は鼻で笑いましたよね
言っときますけどね、こっちは真剣だったんですよ
『お前より強い女を知らねぇ』と、貴方がくれた言葉は戦って戦ってようやく勝ち得た信頼で、男より逞しくなれと鍛えてくれた父と兄と師範に生まれて初めて感謝したものです
例えそれが私の欲しかった返答でなくても、嬉しかったんですよ
だから私は馬鹿みたいに笑いました
みたいというか馬鹿なんですが、誰よりも強くなりたくて誰よりも武士らしく生きようとしてたけれどやっぱり私も乙女だから、貴方の記憶の片隅にでも残れるのなら笑った顔だけ覚えていて欲しかったの

そう、私馬鹿なんです
馬鹿だから元の時代に帰る事より、いつしか貴方に認めて貰う事に執着して
年の差もあるし元の時代に帰ったらもう会えなくなるしと悩む恋する乙女だったんです
本当に馬鹿ですよね
もう帰るとか帰らないとか、認めてもらうとか好きになって貰うとか、そんなの、もう、どうにも


「馬鹿野郎…!!」

ああ、本当に馬鹿ですよね
貴方に向けられた銃口に気付いて咄嗟に庇うなんて
だってきっと私が庇わなくても貴方なら鉄砲の弾位刀で防げただろうに
でもやっぱり恋する乙女だから身体が勝手に動くんだもん

「おい、しっかりしろ!!」

あ、それ無理かもしれません
お腹が痛くて痛過ぎて考えがまとまらないんです
痛いなぁ、なんだか熱くて寒くて痛くてよく分からないや
ねぇ、私、最後は少しでも貴方の役に立てましたか?
私馬鹿だから、いつか元の時代に帰れるんじゃないかとか、この恋も叶うんじゃないかとか夢見てたけど、そんなのもうどうでもいいんです
どうでもいいから、笑ってくれませんか?
最後位わがまま聞いてもらえませんかねぇ

「小十郎、さん…あのね、聞いて…」

「喋るな!!いいか、すぐ増援が来るから大丈夫だ、だから」

「ね、私、がんばりましたよね…?
だから、お願い」

ねぇ、泣かないで下さいよ
私より強い女を知らないんでしょ?
私、死ぬのはもう怖くないよ
だから泣かないで下さい
貴方に抱き留められてる今の状況をご褒美だと思う余裕もあるんです
あったかいなぁ、小十郎さんの手のひら
あったかくて涙が出る
こんな所で死んじゃうのか
でも悪くないです
最後に見るのが貴方の顔だなんて幸せじゃないか
でもね、泣いてる顔なんて見たくないですよ
どうしたら泣かないでくれるかなんて分かり切ってるから、ねぇ、お願い


「私の事は、忘れて下さい」

気に病む位なら綺麗さっぱり私を消して
悲しいけど、でも、もう泣かないで欲しいの
泣いて欲しかったはずなのに、やっぱり私って馬鹿ですよね







悲しいくらい一途で鈍感な馬鹿な女の話


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