「久しぶりだね平和島君、とりあえずすんげぇムカついたから大人しく殴られろ」
二つ隣のクラスの一番後ろの窓際の席で岸谷とお昼ご飯を食べていた他よりも頭一つ分高くにある綺麗な金髪に向かって私は言い放った
平和島の向かいに座って女子っぽい小さな弁当箱をつついていた岸谷は呆然としてから好奇心を隠さないキラキラした良い表情で私を見ていた
そういえば岸谷は小学生の時によく平和島に向かってこんな表情をしていたっけ
別段懐かしくもなんともない思い出が頭をよぎったが、私は平和島から目を逸らさなかった
野生の動物からは目を逸らしてはいけないとよく言うから、野生の熊より数倍の破壊力を持つこいつから決して目を逸らさなかった
「…あー、悪いが、殴られる心当たりがねぇ」
頭に血が上りやすい平和島にあんな事を言ったものだから、私と岸谷以外の人間は即行顔を真っ青にして教室から非難した
入り口からみんなこちらを伺っている
止めて、そういうあからさまな態度は平和島を噴火させる一因になりかねないから
衝撃発言をしたばかりの私が言うのは可笑しいが
こいつが簡単に女に手を上げたり机を投げたり標識でぶっ飛ばしたりしない事を私は知っている
もちろん岸谷も
「平和島君ちょっと前まで喧嘩してたみたいだね、一組で」
「あ?そうだけど…」
「そのおかげでね、私と友達の机壊滅しちゃってんだよねー
携帯机の中に入れっぱなしだったから携帯もダメになってるし教科書ズタズタだし鞄は引きちぎれてるしさ…」
「………」
「どうしてくれんの?」
私は滅多にしないスマイルをサービスしてあげた
友達と少しの間食堂に行ってアイスを買って教室に戻ったら綺麗に私と友達の机だけ壊滅状態だったのだ
隣の席の折原に『シズちゃんがやったんだよ』と薄ら笑いで教えられた
友達は止めなよって言ったけどどうしたって我慢出来ない
殴られようが蹴られようがとりあえず文句を言ってやりたかった
平和島はバツが悪そうに目を逸らした
廊下でビクビクと事の成り行きを見守っている連中の息を呑む音が聞こえる
とにかく私は平和島が次にどう出るか待っていたが、平和島は頭をガシガシと掻くばかりだった
そこでようやく岸谷が口を挟んだ
「まあまあ、静雄君に悪気があったわけじゃないんだから
君もそんな怖い顔しないであげてよ」
「私だって来神最強に喧嘩売る事になると思わなかったわ」
「おや、僕はてっきり彼がヤクザ者も厄介がってる来神の喧嘩人形だと知らないのかと思ってたよ」
「死にたいか新羅」
「謹んでお詫び申し上げます」
平和島が一睨みしたら岸谷は机に手を付いて額を机に擦り付けた
ただの変人に見えて岸谷は上手に世間を渡っていけると思う
「あー……名前、なんつうんだあんた」
「久坂」
「久坂、机と携帯と教科書と鞄…だっけか?
ほんと、悪かった」
「………」
「教科書は俺の貸してやっから、他のもんは後で弁償する」
「…ふざけた事抜かしてんじゃねぇぞ」
「……え?」
「久坂…さん?」
平和島のしおらしい言葉に岸谷も入り口からこちらを伺っている野次馬共も、安堵の息を吐いていた
でもね、私はそういう事を求めてたんじゃないの
違うんだよ
「今みたいに平和的に解決出来るんなら、何で普段からしないの!
キレたらついやっちゅうのは知ってるけど、努力しろ馬鹿!
そんなんだからあのムカつく眉目秀麗野郎に嵌められるんだよ!」
「な、何怒ってんだ…?」
「眉目秀麗野郎って、臨也の事…だよね」
平和島と岸谷はまた目を丸くしていた
ついでに言うと、私は叫んだ時に懇親の力で平和島を殴った
だが平和島はビクともしないし殴られた事に気付いているかも怪しい
そして殴ったはずの私の右の拳に激痛が走ってるのは何でだ
「平和島は良いやつなのに…周りに理解される事諦めてんじゃねぇよ…!
早く折原潰せよムカつくんだよあいつ!」
平和島は頭がちょっとアホだから、殴られた事に気付く前にと私は言いたい事を言ってマッハで逃げた
入り口の野次馬は私にぶつかる事なく上手に道を開けてくれた
平和島はすぐキレるけどすぐ鎮火する
それを心の支えに今週を生きよう、それもとびきり大人しく
「ねぇ静雄、今思い出したんだけど」
「…あ?」
「久坂さんって、もしかして君の家の三軒隣の久坂さん?」
「……あ」
「私とは小学校が一緒だった、君とは小学校と中学校が一緒の久坂さん?」
「…だよ、な」
「君が小学生の時片思いしてたぐへぼッ!」
「へ、変な事言うんじゃねぇ!」
静雄は否定の言葉を真っ赤な顔で吐き出したが、静雄に頭突きを喰らわされた新羅の意識は既になかった
実は幼なじみなんですヒロイン
すごく臨也が嫌いな設定になったが臨也と何があったんでしょうね
最近着地点を決めないまま書き始めるからふわっふわしたままオチもない萌もない何もないものしか書けない