※野田は二巻までしか読んでません(^O^)
薺=ヒロイン
肩が、死にそうだ…
待ちに待ったアルバイトのお給料がようやく出たという事で、私はバイト仲間の女の子と久しぶりのお買い物をした訳で
最近は友達と旅行に行ったりライブに行ったり出費が多かったから服を買う事は控えていた
だが、私もやっぱり女の子
見るだけ、買うつもりじゃないもん!
自分に言い訳をしながらお気に入りの服屋さんを見ているとウズウズして来て、友達とそろりと目を合わせて、『久しぶりだし、いいよね…?』と自分を甘やかしてしまった
それが間違いだった
冬の足音が迫っている今、お洒落な可愛い冬服は重いしかさばる
そんな事も忘れて買い物をした結果、ショップ袋をいくつも担いだ私の肩は限界を迎えようとしていた
家はもうすぐそこだ
狭い道だけれど、すぐそこの角を曲がった方が近道だ
沢山の車やバイクの音を背に、私は民家の間の細い道に入った
狭い道は肩のカラフルなショップ袋によくぶつかる
買ったばかりの服が入っている袋を落とさないように気を付けるのに少しくたびれた
私は立ち止まり、少し目を瞑った
吐き出した息はきっと白く染まっているだろう
冬はもうすぐそこ、手や首や顔が冷えているのが分かる
買い物で少しだけ疲れたが、今日買った新しい服を家のクローゼットに眠る服とどう合わせるか、考えるとウキウキする
荷物の重さに負けず速く帰ろう!
私が瞳を開けた時だった
「うわああぁぁぁぁ…!!」
グシャリ
大地が、揺れた
「な、何事…?」
男の太い悲鳴が聞こえた
そして何か堅い物が潰れるような音も
背中にゾクリと恐怖を感じるのと同時に、さっきまでの寒さが嘘のような纏わりつく湿った熱気が体を覆った
何だか不気味に思いながらも、恐怖心と好奇心の入り混じったドキドキが心臓を動かし、私は肩の重みも忘れて前へと進んだ
薄暗い家と家の間を通り抜けると、夕方の空とは思えない、まるで真昼のような太陽に襲われる
思わず目を細める
その間にもバキ、とかドカ、とか重い音が聞こえる
今度はさっきよりずっと近くで
「だぁからよォォォ、俺を怒らせるなって言ったろー…?」
「ひッ…!」
「俺はただ平和に生きたいだけなんだよぉぉぉぉ…!」
…何事だ、これは?
悲鳴とは違うよく響く声に目を向ければ、背の高い男がいた
その周りはコンクリートがへこんでいたり、呻き声を漏らす大柄な男が何人か倒れていたり、明らかにお巡りさんに登場して欲しい雰囲気だ
男の目の前で恐怖でなのか尻餅をついたおっかない顔をしている男はもう泣きそうだ
しかし、私は背の高い男に何故か違和感を感じた
察するに、背の高い男におっかない大柄の男達が数人で喧嘩でも売ったのだろう
見るからに普通の仕事をしていなそうな男達だ
だけれども、背の高い男は、ただ背が高いだけで線の細い、金髪のバーテンダーに見える
こんなひょろひょろした奴が喧嘩で男に恐怖を植え付けられるのだろうか?
「後ろからいきなり金属バットで頭殴るって事はよぉ、殺そうと思ったって事だよなぁ?」
…背後から金属バットで殴られた……?
「ちっちっちっ、ちがっ……!」
「ならよぉ…殺されたって文句は言えねぇよなぁあああッ!」
金髪のバーテンダーは、彼にとっては手頃な武器である“道路標識を片手でコンクリートから引っこ抜いた”
薺は目を見開いた
『これはCG?ドラマの撮影?こんなド田舎で?』
そうしている間にもバーテンダーは口角だけを吊り上げた恐ろしい笑みで腰を抜かした男に標識を振り上げる
嘘でしょ?
薺は死を覚悟した
何故なら、標識に狙われている男は、生きたいという純粋な生き物の本能で立ち上がり、走り出したのだ、“自分の居る細い道へ”
混乱しながらも他人事と見ていた薺はとっさに動く事など出来なかった
おっかない顔の男と、駐車禁止の標識はそんな事お構いなしに目の前へと迫っていた
近道なんてするもんじゃない
人生の教訓のように心の中で呟いて、薺も本能的に両手を頭を庇うようにかざしてきつく目を閉じた
「ぐあぁああああッ!」
「っ…!」
耳元で男の悲鳴がした
だが、衝撃はなかった
「………ぇ…?」
ゆっくりと目を開けると、薺の足元に大柄な男が倒れていた
「な、大丈夫か!?」
「え…?」
グイッと腕を引っ張られて顔を上げると、焦った顔の金髪のバーテンダー
ついさっきまでの鬼のような雰囲気はそこにはなく、見たままのただの細身の男だ
そしてその肩の向こうに、遠巻きにこちらを見物している通行人が携帯を構えている
薺はようやくこの瞬間の異常さに気が付いた
通行人は皆一様にTシャツやタンクトップ、夏のカラフルな服装だ
買い物を終えて夕方だった筈の空はジリジリと肌を焼いてくる
何より、私は民家の間を歩いていた
なのに今、自分の背後にあるのは何十階建てか見当もつかないビルだ
「ここ、どこですか…?」
「あ?
あんた、迷ったのか?」
あれだけ恐ろしかったバーテンダーも今は全く怖くない
まだカメラをこちらに向ける通行人を呆然と見つめながら薺は答えを待った
「池袋だよ、どっから来たんだ?
行きたかったとこまで送ってやるよ」
待て、待って、待ってくれ
私はさっきまで確実に、東京には居なかった
池袋の自動喧嘩人形が傍に居る事よりも、薺は訳の分からない自分の身に起こった出来事に眩暈がした
シズちゃん可愛いシズちゃん可愛い同棲したい!と考えた結果、こうなった