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DRRR!!/平和島静雄5


しょうがないからこれ着ろ、と渡されたのは、薺には大きい脛までの長さのジャージと、やはり薺には大きいTシャツだった

薺は今、池袋の静雄のアパートに居た
夕飯は静雄に連れられてファミレスで済ませた
奢るという静雄に申し訳ないからと財布から紙幣を出すと、静雄は不思議そうな顔をした
『それ、何だ?』
静雄がレジで店員に渡した紙幣とは、色合いや大きさは似ていたが、デザインが全く違ったのだ
薺は不安が徐々に絶望に変わりつつある事を感じていた

ここは、私が知っていた世界と何かが違う


「…眠れそうか?」

「あ、はい、ソファ広いんで全く問題ないです」

「お前がベッド使っても…」

「いえ!本当に大丈夫です!」


静雄もトレードマークになりつつあるバーテン服からTシャツにラフなズボンへと着替えて、ベッドに横になっている
バーテン姿だとその服装に目が行ってあまり意識しなかったが、こうして普通の服装をしていると、静雄は相当格好いい

今日一緒に行動してみて静雄は頭に血が上りやすく、キレたらその辺にある常識では絶対に無理な自販機やポストなどを投げ飛ばす人物だと分かった
だが、何もなければただただ親切な優しい人だという事も
初対面の女にご飯を奢ってくれ、寝床も提供してくれた
それに、世界で一番殺してやりたいと思っている男に引き合わせ、薺の身に起こっている事をどうにかしようと最大限の協力をしてくれた

説明のつかない不思議な事ばかり起こっている
不安だし本当は怖くてたまらない
それでも静雄が傍に居てくれる事は、薺の心の大きな支えとなっていた
携帯が使えなかった時も、銀行のカードが使えなかった時も、池袋に住んでいるはずの友人のアパートが存在しなかった時も、静雄が居たから泣き崩れる事もなかった
刷り込みと同じ感覚で、薺は初めて会った静雄を心から信頼していた


「あの、平和島さん」

「何だ?」

「平和島さんは、何で私にこんなに良くしてくれるんですか?」


今日一日それがずっと疑問だった
東京の人は冷たい、という勝手な思い込みがあった薺は、尚更気になっていた
危うく静雄に殺されかけたわけだが、実際何故か薺は無傷だったのだから、こんなに親切にされるのは安心する反面理由が思い当たらない


「…怪我、させたかもしれないし」

「私、本当にどこも怪我してないです」

「迷子だっつうし…」

「ほっとく事も出来たじゃないですか」

「………」

「平和島さん?」

「…あー、知るかそんな事!」


静雄は考える事が面倒になったのか、バサリと布団を頭から被った
自分だって何故こんなにこの迷子が気になるのかは分からない
分からないが、今日長い時間一緒に過ごして、この女を不快に思ったり、イラついたりしなかった
キレやすいとよく知っているこの自分が、だ
誰にも言わないが本当は誰かと関わりたいと心の奥底で切望している自分は、この女にその欲求を満たしてもらいたいと願っているのかも知れない


「平和島さーん」

「………」

「………ありがとう」

「…おう」

「お休みなさい」

「……お休み」











ようやくシズちゃん夢っぽくなった(笑)
シズちゃんと同棲したい!\(^o^)/


DRRR!!/平和島静雄4

「とりあえず…そうだな、生年月日、名前、住所、携帯と自宅の電話番号でも教えてもらおうか」

「はい」

「この紙に書いて、はいペン」

「ありがとうございます」


随分と遠い所からやって来た迷子の女、薺は白く細い指でペンを操り、スラスラと言われた事を紙に書き出し、それを臨也に渡した
それをチラリと見て、臨也はすぐにパソコンを操作する
キーボードを叩く音、マウスを動かす音が少し続いて、臨也は眉を寄せた


「…最近引っ越しとかした?」

「いえ、してませんけど…」

「…家族の名前も教えてくれるかな」

「はい…」


薺は時間が経つにつれ徐々に不安になってきた
ここに来るまでに、折原臨也の事は平和島静雄から聞いていた
殺したい位うざいが、情報屋としては名の売れた人物、らしい
情報屋としての情報より、折原が如何にムカつく下衆野郎かを切々と語られたのだが、会ってみると見た目は好青年といった感じだ
だが何だか苦手だな、とも思った

しばらく居心地悪く薺が座っていると、臨也はようやくパソコン画面からこちらを向いた


「薺ちゃん、池袋に来てから、何か可笑しな事とか不思議な事とかなかった?」
「可笑しな、ですか」

「うん」

「えっとー…」


薺は視線を天井へと移して、池袋に来てからの事を思い返した
人がいっぱいいるなー、は違うだろう


「私の記憶では、季節はもうすぐ冬になる筈でした」

「だから暑苦しい服装なんだ」

「あと、道路標識を引っこ抜く人は見た事ないです」

「だろうね」

「そうだ、携帯が使えないんです、メールも電話もネットも」

「…携帯が?」

「はい、あとは…
あ、そうだ、コンビニのATMで私の銀行のカードが使えなかったです」

「……薺ちゃん」

「はい」


臨也は、薺に出会ってから初めて薺を見た
ただ目に写すだけではなく、心の中や頭の中を覗きたい、全てを知りたいと貪欲に
薺はその紅い瞳に背筋に寒気を感じた


「君の携帯と持ってるカード、全部俺に預けてもらえるかな」

「あ、はい」

「ちょっと時間がかかりそうだから、シズちゃんとこに行ってた方がいい
今シズちゃんマンションの入り口に呼ぶから、もうここ出てもらっていいかな」

「はい…」


此方に伺っているような言葉だが、臨也の声と表情は薺の質問も反論も認めないものだった

臨也に指示された物を全て渡し、礼をしてから薺は臨也の家を後にした


「…あ、シズちゃん?
俺だけどー…、あの子の事調べても今のとこ全く何も出ないんだよね
そう、不思議だよねぇ
そんな訳で二日時間頂戴
本腰入れて調べるからさ、二日後にまた来てよ
えー?
知らないよそんなの、シズちゃん家に泊めてあげれば?
女の子が夜中にフラフラしてたらどうなるか位頭の軽いシズちゃんにだって分かるでしょ?」


そこまで言って臨也は通話を一方的に終了した
静雄が怒鳴っていたが、それはいつもの事だ
今はそんな事よりも、ネット上で一切存在が確認出来ないあの女の事だけ考えたい


「君は何者なんだろうね、滝島薺ちゃん」


マンションの前で静雄と合流した薺を見下ろし、臨也は本当に楽しそうに、笑った












臨也のターンが終わらない…

DRRR!!/平和島静雄3

俺の邪魔ばっかりしたがる奴だよね、シズちゃんって
本当にムカつくよ

何日も仕事で部屋に籠もりっぱなしだったから久しぶりに気分転換にブラブラと新宿を回っていたんだ
パソコンか携帯か大量の書類ばっかり見てたから、眉間が痛くてしょうがない
こんな調子が悪い日は池袋には近づかない方がいい
イライラしてるだけなら迷わずストレス発散に行くけどね
唯でさえ人間離れした存在であるあいつの相手をするには今日はちょっと疲れ過ぎている

静かなオープンカフェでのんびりしてから、あまり長居してはうっかりここで仕事をしかねないと思い、マンションに帰る事にした
自分は思っていたよりも情報屋の仕事に力を入れすぎているらしい

もうすぐでマンションに着くという所で、疲れ過ぎな目は幻覚を目撃した


「…シズ、ちゃん」


嘘だろ、何で新宿の、しかも俺のマンションのすぐ近くにこいつが居るんだよ
あーほんとにムカつく、うざい
こいつと関わって良かった事なんて一回もない


「よー、臨也」

「久しぶりだねシズちゃん、もしかして遂に池袋じゃ仕事がなくなっちゃったのかな?」


やべ、いつものクセで余計な事言った
想像通りシズちゃんの額には血管が浮き上がったが、近くに駐車してある車を持ち上げる事はしなかった


…何で?


「今日は手前に聞きたい事があるんだよ」

「へー、いいけどシズちゃんに情報料払えるわけ?」

「ああ?」

「ていうか、その子誰?」


ずっと気になってたけどあえて聞かなかった
シズちゃんの横には珍しく女の子が居た
清楚そうな見た目の女の子
でもなんか顔色が悪い、引きつった表情をしている


「迷子だ」

「……は?」

「夕方買い物して家に帰ってる途中いつの間にか真昼の池袋に居たらしい」

「…意味分かんないよそれ」

「実にすいません」


女の子が初めて喋った
可愛らしい子だけど、何でこの真夏にロングニットにブーツなわけ?
沢山の服屋の袋とマフラーも意味が分からない


「訳分かんねぇ事は大体手前の仕業だろ」

「あのねシズちゃん、いくら俺だってこんな使えそうにもない女を迷子にするなんて無意味な事しないよ
この子頭可笑しいんじゃない?
君薬でもやってるの?」

「生理痛の薬位しか飲みませんが」

「女の子が軽々しく生理とか言わないの」


俺の嫌みは二人共スルー
シズちゃんの彼女とかだった場合あれでシズちゃんがキレるかなと思ったんだけど、キレない所を見ると本当に無関係の女らしい
女の発言は俺もスルーしよう


「本当に気付いたら池袋に居たの?」

「はい」

「家ってどこなの?」

「三重です」

「三重!?」


訳分かんない
宇宙人とか妖精とか幽霊とか現実離れしていない問題だからこそ、本当に状況が飲み込めない
神隠しか何かなわけ?


「君ちょっと上がりなよ」

「え、いいんですか?」

「俺も気になるから調べてあげる、特別にタダで」

「うわぁ、太っ腹!」


女はようやく笑顔になった
笑うと可愛い
馬鹿っぽいし、意外と好みかも知れない


「あ、シズちゃんは俺の家には入れないから」

「あ?」

「調べてる最中に暴れられたらたまったもんじゃないからね」

「っ…」


シズちゃんに嫌みったらしく笑って手を振ったら、女は深々とシズちゃんにお辞儀をしていた
それを見たシズちゃんはすぐに怒りを鎮め、『近くで待ってるから何かあったらすぐ言えよ』と、サラサラの髪の毛を撫でていた

…やっぱりこいつら付き合ってんじゃねぇ?










この話書こうと思ってる長さの二倍位になるんだけど
うざやのターン終了させようと思ってたのに…

DRRR!!/平和島静雄2


いつも通り池袋を歩いていると、いつも通り喧嘩を売られた
喧嘩を売られたなんてものじゃなかった
突然金属バットで頭を殴られたのだ
俺じゃなかったら気絶か打ち所が悪ければ死んでしまっているだろう
五人程度の奴らだった、いつも通りすぐ片付いたと思った
だが逃げ足だけは速いのか、喧嘩売って来た奴の一人だけまだ意識があった
だから俺はいつも通り標識で殴り飛ばそうとしただけだ

どこにそんな元気があるのか、男は狭い路地に逃げ込もうとしていた
それを自分の中に湧き上がる高揚感に任せて振り上げた標識で狙いを定めて殴りつけた

マズい、そう思った
男が逃げ込んだ先に、年若い女が呆然と立っていたのだ
『止まれ……!』
心が体に命じたが、それはどうしたってもう遅かった
標識は男を狙い通り殴り、そのすぐそこに居る反射的に目を瞑る女に当たった



バキッ…!


女に当たった瞬間、標識が引きちぎれるように折れ、後方へ弾き飛ばされた


…何で標識、折れてんだ?


平和島静雄は当然の疑問を抱いた
だが今優先すべきは巻き込んでしまった女だ
頭に血が登ると、自分は周りが見えなくなるし、手加減なんて絶対に出来なくなってしまう
標識が折れる位の力で女を殴ったのだとしたら、すぐさま医者に連れて行かなければ…!

女に駆け寄って声をかけると、不思議な事に女には傷の一つも見当たらなかった
女も自分が怪我をしていない事に驚いているのか、大きな目を戸惑いで見開いていた
そしてここはどこだと見当違いな事を尋ねてくる
池袋だと告げると、顔を青くしてふらりとその場に座り込んでしまう

とりあえず野次馬が五月蝿いそこから担いで連れ出し、比較的静かな喫茶店へ入って、今に至る


「…あの、悪かったな
怪我ないか?」

「………えっ…?」


女は喫茶店に入ってからずっとボーっと一点だけを見つめて、なんだか引きつった表情で笑っている
黙っていればなかなか可愛い、美人と言っても差し支えのない女だと思う
今時珍しい黒髪で、日本人らしからぬ白い肌
だがおかしな事に、女はこのクソ暑い日にヒョウ柄のマフラーに黒のロングニットにスキニージーンズにブーツ姿だった


…寒がりか?


色々と変わった女ではあったが、あんな事があったからなのかあまり喋らないタイプの人間なのか、ずっとこんな調子であった
様子が可笑しいから気になって無理矢理連れて来たが、もしかしたら可笑しいのはいつもの事なのかも知れない


「…平和島さん、でしたっけ」

「ああ」

「ここが池袋だって、ほんとですか…?」

「そうだよ」

「…死ねる、訳分からん……」


先程から女に何度か聞かれたが、ここは池袋だ
何度聞かれてもそう返事をすると、女は引きつった笑みを深くしてボソボソと呟く


「道に迷ったのか?」

「人生で一番の迷子です」

「どこに行きたかったんだ?」

「自宅です…」

「家に帰ろうとして迷ったのか?」

「…頭可笑しいと思われる事は分かってますが、私ついさっきまで東京に居なかった筈なんです」

「……は?」


何を言い出すんだこの女
そう思いながらも女の話を黙って聞いた
女は東京とはかすりもしない田舎に住んでいて、友達と買い物をして、家に帰る途中狭い道を近道だからと歩いていたら、気付けば池袋に居た…らしい


「…お前、凄い迷子っぷりだな」

「自分でも意味が分かんなくて引いてます…」


女はどんよりと暗くなった
初対面ではあるが、何だかその細い肩が頼りなくて、堪らなく可哀想に見えてしまう
俺は席を立ち、女の旋毛を見下ろす


「あー…、薺、だっけ?」

「はい」

「一人だけ訳分かんない事に関わってそうな奴、心当たりがあるから、一緒に来るか?」

「……ハイっ!」


薺は勢いよく立ち上がり、ウルウルキラキラした目で俺を見上げた
今日知ったが、俺も可愛い女には弱いらしい










この後池袋と新宿で一番いざいと有名なうざやさんが出て来るんですね分かります

DRRR!!/平和島静雄



※野田は二巻までしか読んでません(^O^)

薺=ヒロイン


















肩が、死にそうだ…

待ちに待ったアルバイトのお給料がようやく出たという事で、私はバイト仲間の女の子と久しぶりのお買い物をした訳で
最近は友達と旅行に行ったりライブに行ったり出費が多かったから服を買う事は控えていた

だが、私もやっぱり女の子
見るだけ、買うつもりじゃないもん!
自分に言い訳をしながらお気に入りの服屋さんを見ているとウズウズして来て、友達とそろりと目を合わせて、『久しぶりだし、いいよね…?』と自分を甘やかしてしまった

それが間違いだった

冬の足音が迫っている今、お洒落な可愛い冬服は重いしかさばる
そんな事も忘れて買い物をした結果、ショップ袋をいくつも担いだ私の肩は限界を迎えようとしていた
家はもうすぐそこだ
狭い道だけれど、すぐそこの角を曲がった方が近道だ
沢山の車やバイクの音を背に、私は民家の間の細い道に入った

狭い道は肩のカラフルなショップ袋によくぶつかる
買ったばかりの服が入っている袋を落とさないように気を付けるのに少しくたびれた
私は立ち止まり、少し目を瞑った
吐き出した息はきっと白く染まっているだろう
冬はもうすぐそこ、手や首や顔が冷えているのが分かる

買い物で少しだけ疲れたが、今日買った新しい服を家のクローゼットに眠る服とどう合わせるか、考えるとウキウキする
荷物の重さに負けず速く帰ろう!
私が瞳を開けた時だった


「うわああぁぁぁぁ…!!」


グシャリ
大地が、揺れた


「な、何事…?」


男の太い悲鳴が聞こえた
そして何か堅い物が潰れるような音も
背中にゾクリと恐怖を感じるのと同時に、さっきまでの寒さが嘘のような纏わりつく湿った熱気が体を覆った

何だか不気味に思いながらも、恐怖心と好奇心の入り混じったドキドキが心臓を動かし、私は肩の重みも忘れて前へと進んだ
薄暗い家と家の間を通り抜けると、夕方の空とは思えない、まるで真昼のような太陽に襲われる
思わず目を細める
その間にもバキ、とかドカ、とか重い音が聞こえる
今度はさっきよりずっと近くで


「だぁからよォォォ、俺を怒らせるなって言ったろー…?」

「ひッ…!」

「俺はただ平和に生きたいだけなんだよぉぉぉぉ…!」


…何事だ、これは?

悲鳴とは違うよく響く声に目を向ければ、背の高い男がいた
その周りはコンクリートがへこんでいたり、呻き声を漏らす大柄な男が何人か倒れていたり、明らかにお巡りさんに登場して欲しい雰囲気だ
男の目の前で恐怖でなのか尻餅をついたおっかない顔をしている男はもう泣きそうだ
しかし、私は背の高い男に何故か違和感を感じた
察するに、背の高い男におっかない大柄の男達が数人で喧嘩でも売ったのだろう
見るからに普通の仕事をしていなそうな男達だ
だけれども、背の高い男は、ただ背が高いだけで線の細い、金髪のバーテンダーに見える
こんなひょろひょろした奴が喧嘩で男に恐怖を植え付けられるのだろうか?


「後ろからいきなり金属バットで頭殴るって事はよぉ、殺そうと思ったって事だよなぁ?」


…背後から金属バットで殴られた……?


「ちっちっちっ、ちがっ……!」

「ならよぉ…殺されたって文句は言えねぇよなぁあああッ!」


金髪のバーテンダーは、彼にとっては手頃な武器である“道路標識を片手でコンクリートから引っこ抜いた”
薺は目を見開いた
『これはCG?ドラマの撮影?こんなド田舎で?』
そうしている間にもバーテンダーは口角だけを吊り上げた恐ろしい笑みで腰を抜かした男に標識を振り上げる

嘘でしょ?
薺は死を覚悟した
何故なら、標識に狙われている男は、生きたいという純粋な生き物の本能で立ち上がり、走り出したのだ、“自分の居る細い道へ”
混乱しながらも他人事と見ていた薺はとっさに動く事など出来なかった
おっかない顔の男と、駐車禁止の標識はそんな事お構いなしに目の前へと迫っていた

近道なんてするもんじゃない
人生の教訓のように心の中で呟いて、薺も本能的に両手を頭を庇うようにかざしてきつく目を閉じた


「ぐあぁああああッ!」

「っ…!」


耳元で男の悲鳴がした
だが、衝撃はなかった


「………ぇ…?」


ゆっくりと目を開けると、薺の足元に大柄な男が倒れていた


「な、大丈夫か!?」

「え…?」


グイッと腕を引っ張られて顔を上げると、焦った顔の金髪のバーテンダー
ついさっきまでの鬼のような雰囲気はそこにはなく、見たままのただの細身の男だ
そしてその肩の向こうに、遠巻きにこちらを見物している通行人が携帯を構えている


薺はようやくこの瞬間の異常さに気が付いた


通行人は皆一様にTシャツやタンクトップ、夏のカラフルな服装だ
買い物を終えて夕方だった筈の空はジリジリと肌を焼いてくる
何より、私は民家の間を歩いていた
なのに今、自分の背後にあるのは何十階建てか見当もつかないビルだ


「ここ、どこですか…?」

「あ?
あんた、迷ったのか?」


あれだけ恐ろしかったバーテンダーも今は全く怖くない
まだカメラをこちらに向ける通行人を呆然と見つめながら薺は答えを待った


「池袋だよ、どっから来たんだ?
行きたかったとこまで送ってやるよ」


待て、待って、待ってくれ
私はさっきまで確実に、東京には居なかった

池袋の自動喧嘩人形が傍に居る事よりも、薺は訳の分からない自分の身に起こった出来事に眩暈がした







シズちゃん可愛いシズちゃん可愛い同棲したい!と考えた結果、こうなった

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