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ネタ:平行世界で俺は(x25)


「あいつの強さは能力にあるんじゃない。それを使いこなせるところにある」

 姿勢を低くした翠さんは、そんなようなことを言った。仕事帰り、日の落ちかけた市街地にて。兄弟喧嘩に巻き込まれた。字面だけなら他愛ないが。急に走った緊張と音もなく穴の空いた地面。動くなと短く言われた俺は、壁に張り付いたままでいる。空気はとても冷たい。

「藍さんの能力って、人の心を読むとかいう?」
「簡単に言えばな」

難しく言われても分からないだろう。

「『読む』能力自体は、実はそれほど珍しくないんだ」
「会ったことねぇっすけど。隠すってことっすか」
「長生きしない」
「えっ」
「死因は色々だ。だが、まあ、もたないんだろう」

翠さんはさらりと言った。何が、とは訊かない方がいいのか。

「あー……、それを藍さんは使いこなす、と」
「ああ」

曰く、銃撃戦の合間に翠さんが語ったところによると。藍さんは頭の中で複数のテレビ画面を同時に見ているように世界を知覚していて? しかもまた複数のラジオも流れっぱなしで? それは彼の能力の範囲内にいる人間の見る世界・見た世界そのものであるとともに、可能性の世界でもあり? 藍さんはその無数の可能性の中から‘いま’を取捨選択していて? それはいくつもの世界を同時に生きているに等しいとか。なんとか。かんとか。嘘だろ。

「そんなこと出来るんすか」
「出来るんだ、あれには」
「人間技じゃねぇよ……」

思わず呟くと、「そうだな」と短い同意が返ってきた。

「藍の中の世界で、俺は何度殺されているんだろうな」

そう言って翠さんは少し笑った、ように見えた。いやまさか。この状況で笑うわけがない。見間違えたに決まっている。だがそれを確認する間もなく翠さんは「じゃあな」と言って駆け出した。俺はその後ろ姿が消えるのを見送って、何度か深呼吸をしてから、安全を確かめつつゆっくりと歩きはじめた。翠さんは死なない。夕飯の買い物をして帰ろう。





お題:平行世界で俺は死ぬ

我が家のいい兄さん(?)
ちなみに副題は『僕には彼が殺せない』

ネタ:紅を塗っても(ゆうはん(仮))


「『ブスはブスだった』って言ったんだってよ」

 殺人鬼の話を聞いている。遠い国で遠くない時代に彼は、女性ばかりを次々と狙った。被害者に丁寧な化粧を施したその変態が捕まったときにしみじみと言ったのが、こともあろうに『ブスはブスだった』だそうだ。

「わっかんねぇなぁ」

呟くと「そうか?」と意外そうな声が返ってきた。

「そいつは、人は死んだ後の方が美しくなるって信じてたんだろ。でも試してみたら違って、化粧をしてみても誤魔化せなくて、今回はたまたま失敗しただけかもしれないと思って人を変えて何度も試して。根が真面目だったんだろ」

「ひどい褒め言葉だな」

「俺は死人には興味ないけど、理屈は分かる気がするんだよなー」

「……で、なんでそんな話になったんだ? そいつがなんなんだよ」

俺が訊くと、駒江は初めて雀野に向き直った。

「世の中にはそうやって、自分の欲望に忠実に生きてるやつもいるってこと」

雀野は、駒江の笑顔からすぐに目を反らす。

「その殺人鬼の最期、知ってる?」

「獄中で舌噛んで死んだよな」





#しろた夜の1本かき勝負
お題:紅を塗ってもブスはブス

※フィクションです。

ネタ:空腹に劇薬(x25)


 風邪をひいた。
 何年ぶりか分からないが、頭が重くずきずきと鈍い痛みを発して関節が軋んで寒気は止まらず発熱で意識が朦朧とする。息も絶え絶え連絡を取ると、ミヤコさんはいつもと変わらない調子で言い放った。

「バカは風邪引かないっつうのにねぇ。この忙しい時期にまあ」
「……すいません、」

まったく返す言葉もない。ただでさえ役に立っているとは言えない身分で風邪だなどと、迷惑以外の何物でもないだろう。お荷物どころか不用品だ。

「殊勝だこと。気も弱くなってんのかい」

寒中水泳が効いたのかねぇ、と呟いてからミヤコさんは声音を変えた。

「幸いあんたに重要な仕事は回ってない。しばらくおとなしく寝てるんだね。……誰かに飯でも持たせていかせられりゃいいんだけど、」

とんでもない。人に来てもらうだなんて申し訳なさで治るものも治らなくなる。

「大丈夫っす、俺はひとりでなんとかしますから、大丈夫っす、ずっとそうして来ましたから――」

そんなことを回らない頭で言いつのって通信を切った。とりあえず水を飲んで、食い物は作りおきを適当に腹に入れて、あとは眠ってしまえばいい。何もしなくていい。ああ、でも台所が遠いな。立てるか。難しいな。ダメだ、何か食わないと。いや、もう意識が――、


――何をしに来たの××を死なせるつもりなの?!
 ヒステリックな女の声がする。誰の声だったろう、それすらも思い出せないうちに、別の声が必死に答えているのが聞こえた。ああ、こっちのは分かる。これは、俺の声だ。俺のガキの頃の。
――違う、違う俺はただ、
――この子はあなたとは違うのよ、
そうだ、そんなこと言われるまでもない。××は俺とは違うし、俺は××とは違う。他の誰とも違う。だから、
――あんたなんか、あんたなんか、


 気絶するように眠りに落ちて、何か嫌な夢を見た気がする。汗でべたつく身体が不快だ。しかし一眠りしてだいぶ楽にはなった。腹が減っている。俺は生きている。

「よかったね」
「おう」

 おう?
 天井から視線を移すと、そこにシオンが立っていた。気配はなかった。

「……何してんだ」
「看病して来いって言われたから、見てた」

鍵はかけてあったはずなのに、なんてのは相手が相手だ、問題ではない。ミヤコさんが何を思って何を言ったのかは知らないが、こいつは俺とは違って戦力だ。最高に近い戦力だ。こんなところで俺なんかに時間を費やすな。お前にはもっと出来ることがあるだろう、やるべきことがあるだろう。回らない頭でそう思ったのだが、実際口に出せたのは「帰れ」の一言だけだった。当然シオンは不満そうな顔をする。

「ちゃんとやり方は聞いてきたよ」

違う、そうじゃねぇんだ。

「まずはネギで首を絞めればいいんでしょ」

違う。
頭痛が増した。体力も気力も落ちているときにこれは無い。無理だ。勘弁してくれ助けてくれ。帰ってくれの意味が変わる。

「冗談だよ、そんな泣きそうな顔しないでよ」

さすがに俺の悲壮が伝わったのか、シオンは長ネギを放った。残念そうに見えたのは気のせいだと信じたい。そして代わりに取り出したのは、

「リンゴでウサギ」

透かし彫りだった。

「……器用だな」
「まあね」

自慢げにするな。

「……勿体なくて食えねぇよ。水をくれねぇか」
「氷水? 頭をつけるんだっけ」
「飲用だよ」
「なんだ」

なんだってなんだ。
シオンの背中を見送って、目を閉じて、深呼吸して、身体を起こした。大丈夫、大丈夫だぞ、俺。たった数歩を追いかけて台所に向かう。

「寝てていいのに」
「お前の顔見たら起きなきゃと思ったんだよ」
「役に立てたようでよかったよ」

 その後、あったものをぶちこんで作った適当うどんをなぜか2人で食って、片付けをしてもらっている間にシャワーを浴びて、俺は再び布団に戻った。なんだこれ。

「俺、このまま寝るけど、」
「帰らないよ」

これは言っても聞かないな。

「なんでだ」
「居るだけでいい、って言われたから」

ああそうか、そうですか、勝手にしてください。などと言うまでもなくこいつは勝手にするのだろう。考えてみればいつもそうだ。勝手だ。自由だ。羨ましいくらいに。
 他人が近くにいる中で眠るというのは落ち着かないものかと思いきや、少し前まで同じ屋根の下で生活していた仲だし、風邪のダルさもあったし、俺はいつも以上にすとんと眠ってしまった。今度は嫌な夢は見なかった。


「――うん、異変はないよ。このまま一晩様子を見てればいいんだよね。大丈夫、何かあったらすぐに楽にしてあげるから。……冗談だって、過保護だな。そのための僕なんでしょ」


 目覚めるとシオンの姿はなく、枕の辺りがなぜか水でビタビタになっていたのが気にかかったが、体調はかなり回復していた。もう動ける。念のため確認すると、窓はもちろん玄関の鍵もすべて閉められていた。丁寧なことだ。テーブルにはリンゴやオレンジが並べられており、よく見ずともそれらすべてに小動物が掘り込まれていた。

「だからなんでカービングなんだよ」

子どもふれあい動物園といった体のラインナップから、俺はウサギを手に取ってかじる。新鮮な甘さが身に染みた。





#しろた夜の1本かき勝負
お題:空腹に劇薬
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ネタ:ジャック・スケリントンの(x25)

 遠い故郷では若者たちのコスプレ大会と化しつつあるらしいハロウィンだが、ここではいまだに子どもが中心のイベントだ。仮装をした子どもたちがランタンの明かりを頼りに訪問しては、お決まりの言葉とともに菓子をもらっていく。

「何がトリックオアトリートだ」

まったくもって地獄のような時間だった、などと口にしては本当に地獄に落とされかねないので、俺はただカボチャを乱暴に足でどかすにとどめる。ハロウィン翌日の朝。さっさと飾りを片付けて、余った菓子をどうにかしなければならない。

「お前も手伝えよ」

ダメで元々と声をかけると、案の定少年は「なぜ?」と首を傾げた。なぜって、お前な。いや、本から顔を上げただけ良しとするべきなのか。子どもらしくないウチの少年は昨夜も早々に引っ込んで、まったく姿を見せなかった。お陰で俺が「協調性のない親に似てしまって」と陰口を叩かれたのだが、そんなわけあるか、と思う。たかだか2年一緒に暮らしただけで、語り合うでもなく心を通わせるでもなく……、ん? 2年?

「そうか、お前を拾ってからもう2年も経ったのか」

「……」

歳をとると時の流れが早い。俺の驚きに、少年はさして興味を抱かなかった。

「ということはお前、今日が誕生日だよな」

「あなたが書類にそう記載したんでしょう」

まあそうだ。手続き上必要だと言われたから、考えもなく彼を拾った日付を書いた。

「喜べ、菓子ならたくさんあるぞ」

「結構です」

俺にはとても真似出来ない、完璧な愛想笑いで返された。

「ああそう。お前、ほんと子どもらしくないよな」
まあ、子ども嫌いだから助かるけど。

小さく付け加えた一言は独り言だったのだが、こういうときにばかり彼は、珍しい色の目で俺を見つめて、分かったりきったことを説明するような口調で言い切る。

「あなたは、面倒なだけでしょう」

やれやれ、なんと答えればいい。肯定も否定も、何かそぐわない気がして、俺はただ少年を見つめ返す。そうだ、2年前のあの夜も同じだった。凍える寒さ、夜がどこまでも広がっていると錯覚させる星空の下。少年にべったりと着いた血が、血糊ではないと気付くまでのわずかな間、夜空を映したような彼の――

「そんなことより、あと10分でシスターが出勤してきますよ」

「げ」

「片付け、終わるといいですね」

終えないとまずいことになる。慌てて動いてカボチャを蹴飛ばした。くるりと向きを変えたオレンジ色は恨めしそうに少年を睨んだが、彼の視線はすでに活字に戻っている。手伝うつもりはないのか、やはり。





#しろた夜の1本かき勝負
お題:ジャック・スケリントンの憂鬱な話


♪なんでもないようなことが 幸せだったとおもーうー

祐希と夜弥の昔の話
(だーれだ) 夜弥誕!
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