スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

運命パロ;召喚

 ある者には書状で、ある者には口頭で、ある者には頭の中に直接、それは伝えられた。いずれにせよ受け手の反応は一切関係なく、箱庭の戦争は始まることになる。
――暇をもて余した、死神の遊び。
呟いたのは誰だったろうか、まったく笑えなかった。


 * * *


「貴女が私のマスター?」

 色っぽいハスキーボイスが聞こえて、ローズは息を飲んだ。分厚い手紙を読み解いて、見よう見まねで描いた魔方陣から現れたのは、なんともグラマラスな美女。タイトなスーツ。ボタンが飛びそうな胸元。短めのスカートからの脚線美。

「どうし、て」

ローズはがっくり膝をつく。赤い瞳が返事を待つように彼女を見つめていた。しかしローズは構わず叫ぶ。己の感情のままに。

「ど う し て 貴女みたいな人が私のところに来てしまうのよッもっと冴えない男子のところに来てくれればそこから始まる悪魔的美女×ヘタレのベッタベタなエロゲ展開が期待出来たのに!! どうして! 私のところに来たの! 私じゃ全然おいしくない! ああああもう私はかわいい男の子を召喚して令呪を使ってあんなことやこんなことができればそれでよかったのに! よかったのに!!」

床を殴打するローズを見つめたまま、朱楽はもう一度、今度は絞り出すような声で言った。

「貴女が私の、マスター……?」

この陣営が本来ならば主人公であるとは。


 *


 イリスは偶然に感謝した。

――これなら藍の力になれる。藍のために動ける。

理由は、その一点に尽きる。

 飛ばされてきて状況を理解してサーヴァントを呼んで、ここでの自分の力とサーヴァントの力を掴んで。気合いで藍を見つけて信用を得た。

 それでもう、充分だった。

 お互いにマスターになれた偶然は、イリスにとって喜ぶべきことでしかなかった。もしイリス自身がサーヴァントであったら令呪によって制約を受けてしまうし、藍がそうであったらそのマスターを潰す手間がかかってしまう。同じクラスであったとしても悪くはないが、それは最善ではない。手駒が減るだけである。

 お互いにマスターとなった、しかも表立っての戦闘を得意としない藍のクラスに対して、イリスは三大騎士クラスのランサーを得た。バランスもいい。これでイリスの戦いは常のものと同じ、いや、もしくはそれ以上のものになった。

「それで、いいのですか」

雫を一滴落とすように、静かに訊いたのはイリスのサーヴァントになった男だ。

 淡い緑の長髪が中性的な顔立ちを際立たせる。穏やかで、静かで、優しそうで。生涯生物など殺めたこともなさそうにさえ見えるこの男が、どんな風に槍を振るい戦うのか、イリスには正直想像ができなかった。だからこそ、

「いいんだ、俺は。使える藍の駒であればそれでいい」

問い直す。

「あんたこそ、こんな俺のサーヴァントでいいの?」

偶然とはいえ呼ばれたからには彼にもそれなりの願いがあったはずだ。だがイリスにはそれを叶えることはできないし叶えるつもりもない。それでもいいのかと、イリスは聞いた。彼は微笑む。

「構いません。私はサーヴァントとして呼ばれたその瞬間から、マスターとなる人間に尽くすと決めています。どのようなかたちであれこの戦いに貢献すること、それが私の願いです」

ふーん、とイリスは呟く。

「ところで、あんた名前は?」

「必要ありませんよ」

 実際のところ、イリスは、ランサーの名前を知っていた。だが、彼のおぼろげな記憶の中に居る彼と、目の前に居る彼の印象は遠い。藍の言葉が思い出される。

『ここに居る我々は、我々であって我々ではありません』

歪んでいる。歪められている。だから、遠慮をする必要はないのだと、藍は己のサーヴァントを見つめてそう続けたのだった。

「そっか、まあ、よろしく頼むわ」

いずれにせよ、イリスの根幹は揺るがない。すべては藍のためにある。


 *


 ぐるりと脳が渦巻く感覚。戦争の‘ルール’はその渦の中で把握させられた。あーあ、とウィッツは思う。しばらくはおとなしくしていられると思ったのに。逆らえない。放り出された異世界で決められた台詞を口にする。

「問うよ、」

顔を上げて、目を見開いた。
 運命も宿命も呪ったことはあっても祝ったことはない。今回もまた、そうなるのか。よりによって彼、彼なのか。自分とよく似た髪と目の色。しかし、ウィッツの髪が癖をもってふわふわと跳ねているのに比べ、相対する彼の髪はきれいなストレート。ウィッツの目がやわらかくたれ目がちであるのに比べ、彼の目は鋭く冷たい。
 あーあ、と思う。残酷だ。

「……君が、僕のマスターなの?」

ルシフスは静かに肯定した。
――色は父の血、かたちは母の血。
サーヴァントであるウィッツは、そのことを知っている。マスターであるルシフスは、そのことを知らない。


 *


 勝てば、ひとつだけ願いが叶う。
 説明を反芻しながら片手の紋章を見やる。令呪、か。敵は6組の能力者。正直、稼ぐならもっと簡単で安全で確実な仕事をしたいと思う。が。光輝く魔方陣、現れた小柄な人影。

『君のサーヴァントは特別なのです。大事にしてくださいね』

主催者からの笑顔の圧力は、いまだ記憶に新しい。これはルール違反ではないのかと口を開く余裕はなかった。こと回避に関しては相当の能力を持っている彼に、刹那最期を覚悟させるほどの威圧感。

「君が、僕のマスター?」

やらなきゃやられる、
やってもやられる。

半ば諦めに近い気持ちで彼は応えた。

「そう、らしいな。よろしく頼む」

しかしやるなら、徹底的に。
やってやろうじゃねぇの。

「ところでお前、免許持ってんの」
「何それ」
「、」


 *


「我が名は、」

 堂々とした名乗り。

「――汝が私のマスターか」

溢れる輝き、眩しささえをも感じさせるそれは最早オーラとしか呼びようがなく。天性のそれを目の当たりにして翠は、ただでさえ多くない言葉を完全に失った。

「……」
「どうした。私を呼んだのはお前ではないのか?」
「……」
「お前なのだろう? 他の気配はないからな。ならばやはり、お前が私のマスターということだな」
「……」
「何をそう驚いている?」

まさかお前が来るとは思わなかったのだと、そのまま言うわけにいかず。翠はただ一言だけ確認するにとどめることにする。

「お前、クラスを、理解しているか」
「ん?」
「アサシンとは何か、知っているか」
「え?」

隻眼が瞬く。彼が呼んだのはルナだった。帝国軍総元帥として君臨し束ねる立場にある男。アサシンのクラスはどう考えても最大のミスマッチであった。せっかくの気配遮断スキルも、持ち前の存在感に相殺されそうである。

「……呼ばれる先を間違えたか」

 ルナの呟きに翠は頭を抱えた。
 マスターになったところで彼の幸運Eは変わらないようである。

続きを読む
前の記事へ 次の記事へ