ケロクルケロへのお題は『この関係に名前を付けるとするならば』です。
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だった筈でした。ただのケロクルになった。タイトルはもうこの路線で行く。
前に書いた小ネタをつっこんであるけど知らなくても読めると思います。
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額同士を触れ合わせ、クルルはケロロのどこまでも深い瞳を覗きこむ。常にどたばたと騒々しく、厄介な子供のように飛び跳ねてまわる男は、今はただ柔らかく笑みを浮かべている。
互いの指と指を絡ませて繋いだ手を離すまいと握って、自分の必死さにクルルは内心で苦笑を溢した。
そんなクルルの思考を知ってか知らずか、目の前の男は悪戯をしかけるようにクルルの頬に軽いキスを落とす。
二度三度と啄むように口付けられて、何故だか笑い出してしまいそうになったクルルは、込み上げる笑いを誤魔化すように、ケロロの唇に噛み付くようにキスを仕掛けた。
繋いでいない方の腕で互いを抱き合い、深く口付ける。
背を撫で上げるケロロの掌はかさついて硬く、飄々とした日常の裏側を垣間見せるようなそれに、身体の内側に燻る熱が強まるのを感じて、クルルは口付けたまま喉の奥で笑う。
舌を絡ませる、下品なくらいの水音と、笑いを含んだ互いの熱い吐息だけが室内に響く。窓の無いケロロの部屋で、いつも通りに電気は煌々とついたまま。
生活感溢れる場所で随分な光景だと、頭の中の冷徹な自分が言う。しかしこんな事こそ、もう既に日常的なものだった。
そもそも、クルルがケロロと関係を持ったのは、もう結構な前になる。
あれはまだ、互いに本部にいた頃。ケロロは下士官になったばかりで、上が“隊長の素質”を見るために、あちこちの面倒な場所に放り込まれていた。
当時既に佐官だったクルルは、知人に教えられて、本部の会議に出席していた“素質持ち”を暇潰しに見に行った。そこで、常に幾多の可能性と確率を計算し、冷静に状況を見渡す天才の頭脳でも予想もしなかった出来事に見舞われる事になる。
会議室を覗き見しても“素質持ち”を見付けられず、探そうとするよりも早く、当の本人が目の前に現れた。
そうしてその“素質持ち”は、初対面のクルルに全く関係の無い愚痴を捲し立てた挙げ句、混乱して固まるクルルの肩を枕にして、凡そ四十分余り眠り続けたのだった。
あんなにも頭が働かなかったのは、産まれて初めてだった。
その後、“素質持ち”ことケロロとつるむようになってから、大なり小なりクルルの思考を停止させるような混乱と衝撃に巻き込まれる事になるのだけれど、それはまた別のお話だ。
そんなこんなで全くどうしようもない出会い方をした後、クルルの方から動いたり、また偶然に同じ仕事場になったりと、何度か会話を交わす内にどんどんと物理的距離が縮まっていき、いっそ驚くくらいあっさりと肌を合わせるまでになった。
或いは、最初から惹かれていたのかもしれない。
ケロロは、数多の伝説を持ちながらも、不可思議な程実像が見えてこない男だった。
彼方で震えるような戦果を叩き出したかと思えば、此方では呼ばれてもいない下士官の飲み会に乱入し、上官と呑み競べをして数人を酔い潰しただとか。
東でホビーショップの行列に徹夜で並び、その足で向かった会議の場で爆睡した挙げ句自分の寝言の叫びで飛び起きて、そうかと思えば西では立てこもり事件に巻き込まれ、人質は無傷のまま犯人グループの全降伏、なんて事をやらかしていたり。
称賛されるべき成果と、目を背けたくなるような馬鹿馬鹿しいエピソードとが、同じくらいの量でもって流布しているのだ。
あちこちで囁かれるメリハリのありすぎる話は、当然情報収集に手を抜かないクルルの耳にも入っていた。
様々な話を知る度に分からなくなる、予測がつかない奇天烈な男に、一度会ってみたかった。
そうして実際に遭遇し、期待を裏切られないどころか余りにもの衝撃を味わって、淡く芽吹いていた感情が一気に開花した。
きっとあの時、クルルの心臓は持っていかれてしまったのだろう。
どこまでもややこしくて面倒で、視線が外せない厄介極まりない男に。
視線を合わせたままの口付けの最中、ケロロが目許だけで笑う。意図を読んだクルルは、差し込まれたケロロの舌をからかうように柔く噛んで、徐に身体の力を抜いた。
途端、ケロロが乗り上げるように押し倒してくる。
のし掛かる重みと体温はもうすっかりと慣れ親しんだもので、胸の奥が暖かく満ちるのと同時に、まだまだ足りないと浅ましく飢える欲望が背筋を駆け上がる。
目の前のケロロの瞳が、確かな欲を湛えていて、クルルはいよいよ堪らなくなった。
きつく抱き寄せ、頬を合わせる。
早く、沢山触れて欲しい。
もっともっと深くまで、この男が欲しい。
初めて触れた時から、少しも変わらない渇望。
頭の天辺から爪先まで、ほんの一欠片も残さず、ケロロの全てが欲しくてたまらない。
いっそ狂的とも言えるような、果ての見えないほどの衝動。
果たしてこれは、愛だろうか。それともただの執着心か。
そんな事を口に出してみれば、きっとケロロは笑い飛ばすのだろう。
内容物なんか知ったことじゃない、頭の中も外もひっくるめて端っから自分のものなのだから、それで良い。
なんて、我が儘にも程があるいつもの調子で。
結局のところ、自分が幾らぐるぐると考え込もうと、この男の前では徒労に終わる。
幾度と無く調子を崩されて、それでも共に行く事を止められないのだから、どうしようもないのだろう。
そこにある感情が何であっても、自分はきっともう、離れられない。
思い描いたケロロの姿が余りにも鮮明で、思わず吹き出したクルルに、ケロロからの胡乱げな視線が刺さる。
なんでもない、と宥めるようにケロロの頭を撫で、クルルは笑いの衝動をなんとか引っ込めた。
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