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あん ☆

寂れた町にある小さなどら焼き屋店主・千太郎は繁盛させようという欲もなく、ただそこそこの味のどら焼きを毎日焼いては売っていた。
表に貼ってあったアルバイト募集の張り紙を見てやってきたのは、定年をとっくに過ぎた、指の曲がったおばあさん・徳江だった。高齢である事、そして指が不自由である事からアルバイトをお断りするが、中国製のあんこを毎日ただ練っている千太郎のどら焼きに対し、あんこの味が良くないと言い、50年以上あんこを作ってきたという徳江のあんこを試食した千太郎は、時給200円で良いからという徳江の言葉通りに、徳江を雇う。

徳江が誠心誠意作ったあんこはそれはもう美味しいもので、客足が伸び、大盛況する。しかし、徳江の指や表情を見た何人かのお客さんは、変な顔をしていくのが気になる千太郎。

やがて、お店のオーナーから徳江はハンセン病患者なのではないか?と聞かれ、慌ててインターネットでハンセン病の事を調べた千太郎は、日本が戦争で負けた頃、ハンセン病は死の病と呼ばれ、発症したら隔離され、戸籍も抹消されるほどの重病だった事を知る。
しかし、現在の日本にはハンセン病患者は一人もおらず、海外から入ってきた薬のおかげで、早く薬にありつけた人には、見た目で分かる特徴がないことなどもわかり、ほっとする千太郎だったが、飲食店にそんな不安を抱えた人を雇っていること事態が問題なのだ、と叱責され、徳江を一刻も早く辞めさせろと言われてしまう。

しかし、潰れはしていなかったものの、儲かっていると胸を張れるほどの店ではなかったどら焼き屋が、徳江のおかげで客足が伸び、大麻所持で捕まり兵役をした後、どうしようもなく寂しかった千太郎に、希望を見せてくれたのも徳江であった。
それを考えると千太郎はとても、徳江に辞めて欲しいなどとは言えず、どんどん客足だけが減っていく。
そしてとうとう徳江は自ら辞めてしまうのだ。

徳江が辞めて、千太郎が徳江と同じ味とまではいかないが、そこそこのどら焼きを作れるようになっても
、相変わらず店には閑古鳥が鳴いていた。そんなとき、常連客だったワカナちゃんがカナリアを自分の代わりに飼ってほしいと申し出てくる。
突然の話に呆然とした千太郎は、もし千太郎が飼えないと言ったら自分が飼ってあげると徳江が言っていたと聞き、徳江に手紙を書いて、徳江が住む、かつての隔離療養施設をワカナちゃんと共に訪れる。

そこで久しぶりにあった徳江は、自分の生い立ちを語ってくれた。
ワカナちゃんと同じく、14歳の時に、ハンセン病にかかってしまい、隔離施設に入れられ、それからは一歩も外に出られなかった。隔離施設には火事が起こっても消防も警察も来てくれないので、ハンセン病患者達は闘病しながら、病気が発症する前に付いていた職業で得た知識などを、隔離施設で上手く活用し、消防団を作ったり、洋裁を始めたり、子供に読み書きを教えたりしたのだという。
戸籍を抹消されるから、徳江という名前も、本名ではないし、ハンセン病患者を隔離しなくてもよいと国が定めた1990年代後半に入った頃には既に徳江の母も兄も亡くなっており、唯一生きていた妹と一緒に暮らすのは断られてしまったという壮絶な人生を語る徳江。

隔離施設で知り合い結婚した旦那が製菓が出来たので、あんこの技術はそこから学んだのだという徳江に、何も言えなくなる千太郎。

客足は相変わらず鈍く、年を越す前にどら焼き屋を畳もうかという話まで出て悩んでいた千太郎の元に、徳江から手紙が届く。

『あん』
著者 ドリアン助川
発行者 株式会社ポプラ社
ISBN 978-4-591-13237-1
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