pm4:30



―講堂に鳴り響く音

歪みのかかった、抜けの良い弦楽器の音。
ディレイのかかった綺麗なフレーズ。
決して速いわけではないのに、息を飲むような、その指使い―

不意にドアが開き、つい指を止めてしまうが、姿を確認すると、彼女に対してそっと微笑んだ。


「今は私しかいないよ?みんなちょっと遅れるみたい。」

彼女はすっ、とギターのボリュームのつまみを回せるところまで回す。

「それでいーのっ。私は渚のギターを聞きに来たんだから。」

そう言って、薫は近くにあった椅子に自分の鞄を置く。

「今のは?新曲?」

「うん、まだ曲ってほどでもないけど…。今のフレーズしか思い付いてないからね。」

そう言って、さっきとは打って代わり、パンキッシュなパワーコードのフレーズを弾く。

「この前の曲もよかったけど、今回のもいいね。いつもと雰囲気は違うみたいだけど…」

鞄を置いた椅子の隣のものを渚の近くまで引きずり、ちょこんとそれに座る。

「でもそんな感じも好き、だな。」

まじまじと[弾いてほしい]とでも言いたそうな顔をしてそう薫は言った。渚は嬉しそうに、やれやれとぼやき、ギターの音量を上げる。


流れる旋律。


ディレイのせいか、音の配列のせいなのか。
それとも、これが渚の心情なのか。
何かはわからないけれど、切な気な、そのフレーズは、綺麗で…。


「こんな感じ…かな?」

途中で演奏を止め、照れくさそうに頬をかくそぶりをしてみた。実際、未完成のそれを人前で弾いたのが若干恥ずかしかったのだろう。

「すごくいいんだけど…なんで途中で止めちゃったの?」

ものすごく不服そうな顔をする薫。

「ぇ、いや、あのフレーズはあそこで終わり。そうじゃないと無限ループだし…」

「嘘、続き、あるでしょ?」

「う…」

続きは、ないことはなかった。

「でも、頭の中でしかないし…絶対途中でミスるし…やりすぎたらそのまま勢いで弾いちゃいそうだし…」

ははっと笑って、渋い顔をしつつ、ギターのボリュームを下げる。

「だーめっ、今ある最後まで。」

薫はギターに手を伸ばし、すっとボリュームをあげる。
渚はものすごく渋い顔をして、目で「どうしても?」とうったえると、薫は満面の笑みで頷くのだった。



3.夢の序章

to be continude