やっぱり、このメンバーで合わせるのは、気持ちいい。ストレスはあまりないし、大体は私の欲しい音を、持ってきてくれるし、皆もそれでほぼ、しっくりきてる。
ときどき、不十分を感じるときもあるけど、人間が違うわけだし、それも最低限だから、十分満足できる。
そう思いながら、彼女は指を動かす。ベースとドラムの音にのっかるようにして、六弦をかきならす。
「ちょっといいか?」
ベースの音が止まり、バンドは演奏を中断した。
「どうした、浅倉クン。どっか気になるとこでもあった〜?」
と、今まで気持ち良さそうに歌っていた女が問う。
「今の直前のとこさ、最後のワンフレーズにさ、ギターにちょっと違った色をつけてみないか?」
「どういうこと…?」
渚は浅倉に不思議そうな顔をする。
「多分、連続してる音のパターンに、ちょっとアレンジを加えてみて、違った感じを出そうってことだろ、浅倉クン?」
と言うと、ペットボトルのなかに入っている水に口をつけた。
「あぁ、なるほど。」
「浅倉クンは芸術家肌だから、なかなか言ってることが伝わりづらいんだよね、比喩表現よく使うし。」
「そのための、俺のスポークスマンだろう?」
顔を見合わせて、拳を付き合わす二人。
「ほんと、よくわかるよね、杉原は。私は国語力ないからさっぱり…。杉原も芸術家肌なんじゃない?」
「いやいや、そうじゃないよっ。ウチと浅倉クンは長年のお付き合いだからさっ。まぁ、腐れ縁ってやつ?」
両手を上げ、やれやれとでも言いそうなポーズを作る杉原。
「まぁとにかく、ギターに違った色をつける、だっけ?やってみるから、さっきのフレーズからいこう。」
「んじゃ、西園寺クン、スティックカウントよろしく」
西園寺と呼ばれた男は、ぐっと伸びをして、無表情でスティックカウントを刻む。
気持ち良さそうにアンサンブルを奏でる彼女らを、微笑ましそうに眺める。それだけでも、彼女は幸せだったのだ。それだけで、幸せだったのだ。薫はそっと、鞄の中のトイカメラを取り出して、気持ち良さそうに演奏する4人をフレームに収めた。
4.バンド
to be continude