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序章2「朝焼けの光の中に」2


ある日の事だった。
「えっ、弟?」
「そうだ、お前と同い年の弟だ」
「ええーっ!会いたい!初めて聞いたよ!」
手足で喜びを爆発させている様子に
リーヴィルが笑って立ち上がった。
「ちょっと待ってな!兄貴に聞いて来る」
「うんっ!」
リーヴィルが部屋から出ると、すぐそこに
人影があった。
「兄貴、脅かすなよ!びっくりする」
「リーヴィル、今ヤツとの接触は無理じゃ」
難しい顔のファルヴァルが即答で答えた。
「何かあったのか、兄貴?」
「ヤツが、目覚めた」
「そんな!じゃあソフィア様が!」
思わず声が高くなる。
「ソフィア様は大丈夫じゃ、だが」
「ジャヴィラ、か?」
「そうだ」
ファルヴァルがふーっと息を吐き出した。
「いや、会わせてみよう!」
「良いのじゃな?」
その問いにコクンとリーヴィルが頷いた。

ただっ広いホールの中。
静か過ぎで何も聞こえなかった。
「こんにちは」
不意にそれはホールの中へ入って来た。
「あっ、こ、こここ、こんにちは」
緊張で声が震える。
「兄さん?」
「う、うん、そ、そそそ、そうだよ」
「会いたかった!兄さん!」
いきなり飛び付かれて倒れてしまった。
「いたたたた」
「ごめん兄さん、大丈夫?」
「ん、大丈夫!」
二人して笑いながらその場は和やかに
時を刻んでいった。



序章2「朝焼けの光の中に」1


あれから、何日経ったのだろう。
頭の中が急にクリアになっていった。
痛みが和らぎ、自分という感覚が
戻っていく。
そーっと目を開ける。
パチパチと瞬き、天井の白い色が瞳の中に
入って来た。
と。
「リーヴィル!?」
甲高い声が自分を呼んだ。
「もう大丈夫じゃな」
顎髭を蓄えた兄の声が聞こえた。
「リーヴィル、何で黙ってたんだよー」
ぷぅと頬を膨らまし言葉を続ける。
「美人なお姉さんと」
え?と言う表情でリーヴィルが見つめる。
「朝までイッてたなんて!!」
ぶっ!とリーヴィルが吹き出す。
「僕も美人なお姉さんとイキたかったなー」
「ちょ、ちょっと待て!何だそれは」
「え?違うの?」
キョトンとした後でニヤニヤしながら
「赤くなってー!隠したってダメだよ」
「ぶわっかもーんっ!!」
後ろでファルヴァルの怒声が飛んだ。
「何だよー!先生が言ったんだよ?」
髪に付いた唾液を拭いてジロリと睨む。
「子供がんな事をベラベラ喋るんじゃない」
「良いじゃん別に」
「良くない!!」
二人して顔を赤らめ叫んだ。
「もう大丈夫なの?」
「ああ、心配かけたな」
「ううん、心配してないよ!」
きゃほーいと叫ぶと廊下をあっという間に
駆けていった。
「転ぶなよー!何て聞いちゃいないか」
はははと苦笑いのリーヴィル。

時は静かに近付いて来ていた。
眠っていたその身体を伸ばし、ふわーと
起き上がる。
辺りを見回した、その時。
「何だろう」
それはいきなり現れた。
「待ってよ!待ってよ!た、助けて」
言葉は、そこで途切れた。
空には黒い羽がいくつも舞っていた。




序章2「迫り来る恐怖」3


そこだけが異様な空気でいっぱいだった。
「アスティ、ヴィラ、マハーン!」
「切印!喜消断絶!」
バチバチっ!と両者の魔力がぶつかり合って
消えていく。
「何故?何故邪魔をする!」
「本当のソフィア様を知ってるからです!」
「私の子を狙っているのね?」
再び魔力は相殺されて消滅する。
「私を知る、だと?」
「ソフィア様はこんな事を望んだりしない」
「煩いハエめ!」
青黒い光がオーラとなって全身を
包み込んでいった。
「うおおおおおおおお!!」
「ソフィア様、もう観念して下さい!」
オーラが更に強くなり、リーヴィルへと
物凄い早さで突き進んでいった。
「ランド、ヴィラ、マハーン!!」
「ぐふっ!!」
いくつもの矢のような針が
リーヴィルに向かって突き刺さる。
「隙あり!!」
ソフィアが次々に魔力を飛ばす。
だが、リーヴィルはふっ、と息を吐くと
ソフィアの額に印を結んだ。
「刻印!喜怒哀楽裂傷!」
「ぐ、ぐおお、貴様ぁぁぁ!」
ふっと青黒い光が消えたかと思うと
リーヴィルに刺さっていた針も消えた。
ソフィアは目を閉じて傾いた。
「これで暫くは動けないはず、うっ」
痛みを抑えリーヴィルは部屋を出ていった。

夕方。
子供達が教室からワイワイと出てきた。
「またねー」
「バイバーイ」
「あっ!リーヴィルだぁ!」
嬉しそうな声が一際高く聞こえた。
「すまなかったな、朝から用事があって」
リーヴィルが目線を合わせて座ると
「うんっ、大事な用事だねぇ」
ニタニタ笑われてプッと吹き出す。
「また明日ね!」
リーヴィルは立ち上がると
不意に視線を感じて振り向いた。
「兄貴」
「良く頑張ったな」
「ああ、まあな」
最初は笑っていた表情が次第に曇る。
「もう、良いぞ」
ファルヴァルがそっとリーヴィルに
声を掛ける。
「有り難う、兄貴」
リーヴィルの意識はそこで途絶えた。
やがて、夜が静かに訪れた。



序章2「迫り来る恐怖」2


その日は穏やかな日だった。
鳥が囀り、花が生き生きと映える。
そんな朝から1日が始まる。
「おはようございます」
「うーん、あっ!おはよう!」
「良く眠れましたか?」
「うんっ!」
「ふふふ、良かったですね」
元気良く返事を返す様子に思わず笑みが
零れ落ちる。
「ねぇねぇ、リーヴィルは?」
「さぁ、朝から姿を見かけませんが」
「そうなんだ、何処に行ったんだろう?」
着替えをしながら、困った表情になる。
「きっとファルヴァル様とご一緒では?」
「そうだね!今日も練習頑張るぞ」
着替えが終わり、気合いを入れるように
腕を回す。
「行ってらっしゃいませ」
「うん!有り難う!」
支度を整え部屋を出ると足早に廊下を
駆けて行く。
「あっ!ファルヴァル先生!」
「おお、今日は早いのぅ感心感心」
「先生、リーヴィルは一緒じゃないの?」
不安そうな表情で見上げる。
「おおお、えっとな、その何じゃ」
蓄えた顎髭を擦り擦りしながら
ファルヴァルが言葉に詰まる。
「あー、実はのぅ」
「うんうん」
しゃがみ込んだファルヴァルが耳元で
ぼそぼそと喋り始めた。
「えー!彼女とデートぉぉぉ?!」
「こりゃ、声がデカい!」
「へぇー!リーヴィルってモテるんだねー」
はしゃぎながら笑いが止まらない。
「リーヴィルには内緒じゃよ?」
「えぇーつまんないのー」
ぷうっと頬を膨らまし、不満な声をあげる。
「それよりも、練習じゃ!行くぞ」
「はあぁーい」
ファルヴァルに連れられ教室へ入る。

時同じくして別の部屋では。
「詰めが甘いわね、リーヴィル」
「そうでしょうか?」
「私を止められると思ってるの?」
激しい睨み合いに辺りは
緊張感でいっぱいになった。
「思っている、と言ったら?」
「悪い冗談ね」
そこには青黒い光に包まれた、何かがいた。
「そちらこそ、ソフィア様」
二人の間にはピリピリした
火花が散っていた。



序章2「迫り来る恐怖」1


人々の屍が涙ぐましく合同埋葬されてから
3年目の春を迎えようとしていた。
その日はごくごく普通の日で
鳥の囀りが響く平和を思わせるような
あたたかい1日だった。
「ヤッホー!!」
「こりゃあ、何をしておる!」
「あーやべぇ、ファルヴァル先生来たぞ」
「にっげろぉぉぉ」
ここは小さな子供達の為に作られた学校。
学校とはいえ教科書などは何も無い。
子供達は自由に遊び暮らしている。
その中でやんちゃな性格な子がいた。
「なぁなぁ、またあれやってくれよ?」
「えーっ、またぁ?」
「良いじゃないかお前きっと素質あるんだ」
ぼそぼそと話し合いが続いて
結局やることになった。
「奥底に眠りし白き御霊よ」
念じると光る白球が手のひらから溢れ出す。
「今、我が命においてその姿を現せ」
すると、手のひらの白球が
ふわっと飛び出し、壁に当たって弾けた。
「すげぇぇぇ!!」
「ふーっ、まぁこんな感じかな?」
得意気に鼻息を吹かす。
「良いなぁ、俺もやりてぇよ!」
「練習あるのみだよ」
「その通りじゃ!」
背後から嗄れた声が聞こえた。
「あっ、ファルヴァル先生!」
「さっさと戻りなさい!」
「はぁーぃ」
渋々、二人はファルヴァルに連れられ
戻っていった。
「妄りに見せるんじゃない!!」
ガラガラガシャーンと雷級の怒声が飛ぶ。
「だってぇぇぇ」
「だってもへったくれもない!!」
ファルヴァルの、思わず入れ歯が
外れそうになるくらいの説教に思わず
顔を下げる。
「皆がスゴいスゴいって」
「まだ、そんな事を!」
「まあまあ兄貴、そんなに怒ると血管が」
背後から、別の声が聞こえた。
「あっ!リーヴィル!」
「よっ!また叱られてるのか」
「リーヴィル!お前が甘やかすから」
「分かった分かった」
リーヴィルと呼ばれた男がファルヴァルを
落ち着かせた。
「ねーリーヴィル、帰ろうよー」
「後で行くから先行ってな」
「はぁーい!」
子供は無邪気に飛行機ポーズを取りながら
走って廊下からあっという間に
消えていった。
「兄貴、そろそろだな」
「リーヴィル、ちゃんと教育するんじゃぞ」
ファルヴァルとリーヴィルの兄弟が
表情を落とす。

「もうすぐ3年」
「早いな、時の流れと言うものは」
二人の声が広いホールに響く。
「また、始まるのか」
「我々でどうにか抑えるしかない」
空を見上げ、その言葉は掻き消されるように
吸い込まれていった。





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