「三ヶ月振りくらい、ですかね」
ふと彼女が口を開く。僕は少しだけ考える振りをして、「ああ、そうだったかな」と生返事をする。正直、時間の感覚にあまり興味がないのだ。過去のことなのだからそれがいつだったのかはどうでもいいではないか、会った事実があれば。始まりと終わりさえあれば。そんな風に考えてしまう。
「先輩はなんでこんなところを歩いてたんですか。お散歩ですか」
後ろで手を組み、小首をかしげながらそう聞いてくる。なるほど、彼女の中で最近流行っているのはこのポーズなのか。
「わからない…とでも言っておこうか」
「なんですかそれ」
ははっと彼女は笑った。
「如月は、どうしてこんなところで散歩してたんだ。色々と創作活動とかが忙しいんじゃないのか」
「私ですか。んー、そうですね…」
顎に人差し指を当て、目をつむり考えているようなポーズをとり、うーんと唸る。
「しいていえば…秋が私を呼んでたんですよ、先輩っ!」
そう言い放つと、彼女はびしっと顎に当てていた人差し指で僕を指差し、ポーズをとり、最上級のドヤ顔を僕に向ける。
「いや、意味がわからん」
期待に沿って、僕は彼女に白い目を向けてやることにした。ポーズをとったまま動かない彼女を置いて歩を進めると、ちょっとちょっとと言いながら彼女が小走りで追いかけてきた。後ろからふぅ、と彼女が息を吐くのが聞こえた。どうやら定位置に戻ったらしい。
「好きなんですよ、秋が」
唐突に彼女が口を開く。
「涼しいし、過ごしやすいし」
「でも、もの寂しいぞ。枯れていく、終わりの季節だ。絶望しかないじゃないか」
「そんなこと、ないですよ」
小走りで僕の前まで出ると、僕の顔をじっと見た。
「確かにもの寂しいかもしれません。でも、絶望なんてないですよ。終わりじゃなくてむしろここから春が始まっていくんです。木は枯れちゃうけど、それって次の春にまた咲くためのスタートなんですよ。終わりなんかじゃなくて、むしろはじまりなんです」
言い終わると、手を後ろで組みながら、小首をかしげて、彼女は満面の笑みを僕に向けた。僕は思わずびっくりしたような顔を作ってしまう。


しかしなるほど…ものは考えようだな。


僕は自嘲気味に笑い、彼女の頭を軽くぽんと叩き、また歩を進める。彼女は斜め後ろを付いてくる。



「おかえり、如月。ちなみに会うのは四ヶ月ぶりだぞ」



FIN