生存確認
 モズ氷♀(dcst)
 2021/2/17 03:21

俺上手いから、初めてでもちゃんと気持ちよくしてあげるよ。…なんて、身を焦がす程の恋をした男に言われて、嬉しいと思う女がいるだろうか。事実私自身、喜ぶどころか最低な男だなと思ってしまった。過去の女性経験を誇らしげに語られて、そこで培った技術をお前に振る舞うと言われて。心を決めた筈なのに暫く肌を許せなかったのは、そんな彼の失言が原因だった。

「…ぁ、っ、…こ、だめです…っ」
「んー、ここだよね。きもちぃでしょ…?」
「ん、あっ!」

力強い手に大きく開かされた脚は、その間に割り込んだ体によって閉じる事は出来ないまま、とうとう全てを受け入れてしまった。押し込まれる男性器を拒絶する体力は既に無く、自由な筈の両手は、何故か彼の背中に爪を立てて必死にしがみ付いている。それでも尚留まれずに滑り落ちる両手が歯痒いと思っているなんて、至近距離で見つめる瞳にはばれているのだろう。
お互いの下半身が隙間無く密着し、その場所に彼の重みを感じる。彼の体はずっと私の上に乗っかっていた筈なのに、ことここに至るまでそれを感じずにいたのは、彼が私に負担をかけまいとしていた事の何よりの証だった。
気遣われている。最初からずっと。今も。処女の体内なんて、加減も解らずきつく締め付けているだろうに、彼にとっていい状態ではきっとないだろうに。それでも彼は、私の反応を常に観察し、少しでも何かあれば行動を止め、言葉を尽くした。恥ずかしさ故に嘘を吐いてしまう私に笑いかけ、かわいいと囁いては優しく体をひらいていく。宝物に触れる様に、なんて、考えたこちらが照れてしまうくらいに繊細な手付きで私に触れて。唇を落として肌を吸い上げ、その際のほんの少しの痛みに眉をしかめるさまにさえ、とろける様な笑みを浮かべるのだ。
そのうちに、気持ちいいかと問われる事が嫌ではなくなってしまった。素直にはいと答えれば笑ってくれる。恥ずかしくて口ごもればまた、少し意地悪に口許を緩めた。そうして同じ事を繰り返して、私が同じ問いに対して首を縦に振って答えるまで、それをやめてくれなかった。いいこだね、と耳に吹き込まれる声がとてもいやらしくて、それでまた肩を震わせた。

「ね、氷月。きもちいいって、言って」
「……っ…そん、な」
「はずかしい…?」
「………」
「…かわい…」

彼が押し入った箇所に、確かに痛みは感じていない。処女である自分が、初めて男性に抱かれる時、相手がどれだけ経験豊富であろうと欠片も痛みを感じないなんてある訳がないと思っていたのに。
彼が以前吐いた言葉の通りになった。事象だけ見れば、痛くないのは喜ばしい事だ。それでも、この結果への過程に彼の女性遍歴がどうしても見えてしまって、手放しで喜べない自分がいる。
自分が初めてだからって、彼も初めてでいて欲しかったなんて、そんなのはただのわがままだ。私にとって彼はただひとりの人だけれど、彼にとって私がただひとりの女でなければ嫌だなんて、そんな事は言える筈がない。理解はしている。納得しようともした。納得出来ているかは、別の話だった。

「…痛く、ない、…よね」
「……」

時折少し不安げに、そう問うて来る彼の声を聞く度に。
答えを声には出せず、ただ少し頷くだけの私を確認して、強ばった目許を緩ませるのを見る度に。

好きだ、と、思うのだ。
この、私を大切に扱おうと必死な男が。

「動いていい…?」
「は、……」
「…ん?」
「……は、…い」

きっと、いちいちお伺いを立てる必要など、本来ならないのだ。両手両足の指の数でさえ足りない程の女を抱いて来た彼なら、女の体の反応を見るだけでどう感じているのかも解るだろう。それでも言葉にして問うのは、私が他とは違う存在だから。
ひとつひとつ、確実に、絶対に。痛くしない様に。私に苦痛を与えない様に、ただただ気持ちいい様に。今までの経験で培った技術を全て、私の為に。
…最低な男だなんて、どうして思ったのだろう。すべて私の為だったのに。他にないくらいに大切にするという、決意の言葉だったのに。…その意味で捉えるには、常識から外れた言葉ではあったけど。

「ひぁ、っ、あん、あっ、…あっ」
「…っ、やば、…ひょうが、声めちゃくちゃえろ…」
「や…、っ言わないで、くださ…、ッ」

ゆっくりと引き抜かれた彼のものが、少しの間を置いて再び奥へと進入する。指と舌で散々触られて快感しか拾えなくなった体内を、おおきくてあつくて、きもちいいものが何度も往復しては擦り上げる。堪えられない声が洩れるのを止めたくても、口を押さえる為の手は彼の背中から離れない。恥ずかしいから啼きたくないのに、私の声を聴いた彼がとても嬉しそうにするから。恥ずかしいだけなら、いいか、なんて。思ってしまう。
痛くない。きもちいい。中は勿論、彼の大きな手に揉まれている胸も、時折擦られるだけのはらの外側さえも。きもちよくて、それが恥ずかしくて、それを喜んでくれるのが嬉しくて。言葉には出来ないから、何とか力を入れて脚を持ち上げ、彼の逞しい腰を包んだ。離れないで、近くにいて、そんな想いが伝わればと願いながら。

「っ…、あのさぁ、こういうこと…。あぁ、クソっ」
「ぁ! モズくん、だめ、だ…めぇ、おく…っ」

私の脚に律動を制限された所為か、動きを止めた彼が悔しそうに言葉を洩らし、今度は強く体重を掛けて深く深く入り込んで来た。息が苦しいけど、それでも痛くはない。もういいと泣いて縋ってしまう程に長い長い時間を掛けて馴らされたこの穴は、もう、彼から何をされても苦痛としては受け取れなくなっている。

本当に上手いんだなと、実感する。沢山の女に触れ、快楽に啼かせてきたその実績の集大成が、今の彼だ。
その事実に嫉妬していた。でも、そんなものは些末事なのだ。過去を経験して築いた今の彼は、今私だけの為に存在する。それが純然たる事実なのだから。

「きもち、い、…です、モズ君」

もっともっと、私の為に上手くなって。
これからは、私の体で、上手くなって。

聞こえないだろうと、寧ろ聞こえなければいいと、肩口で呟いたけれど。きっと聞こえてしまったのだろう。
突然固まった体と、合わせた頬の熱が、彼の動揺を伝えてくれた。

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