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ある秋の日に、壱

秋だ。
木の葉は散る準備を始め、視界に入ってくる色は何処かもの寂しく何の希望もない。
何も始まらず、ただ枯れて朽ちていくだけの秋だ。
河原なんてところを歩いていると余計にそんなことを考えてしまう。うんざりするような微妙な寒さと寂しい色感に嫌気が差してただ歩を進める。どこにむかっているかは分からない。恐らくこれは散歩という部類に入るのだろう。
「浅倉さん」
うつ向いて歩いていると聞き覚えのある声に話しかけられた。が、誰か思い出せない。十分の一秒の思考の後、思い出そうとすることを諦めて振り返る。
「ああ…如月か。なんだ」
少し離れたところに彼女はいた。その姿を視認して、僕は散歩を再開する。
「なんだとは、ご挨拶ですね。久しぶりの再会なのに」
明るい語調でそう言いながら、彼女の声が近くなる。
「寒く…なってきましたね」
斜め後ろを定位置にして、僕の歩調に付いてきながら、ほう、と空中に息を吐く。その動作に僕は思わずくっ、と、笑ってしまう。
「まだ息が白くなるほどは、寒くないだろう」
「えー、そろそろですよー。一ヶ月前と比べたら、ほら、最高気温も最低気温も、十度は下がってるじゃないですか」
立ち止まり、彼女の顔を見て、少しの間を置いて僕ははぁ、とため息をつく。
「今日の最高気温と最低気温、知ってるか」
少し苦笑いしながら彼女に問いかけると、ムッとした顔をして「二十二度と十四度…」と答えた。
「そういうことだ」
僕は踵を返して歩を進める。「でも向こうや前よりは確実にさむいもん」なんてぶつぶつ言いながら石を蹴る。彼女はやはりどうもつまらないようだ。ふてくされた顔をしながら、斜め後ろを付いてくる。
「先輩の現実思想っぷりは変わりませんねー」
「お前の理想思想っぷりも、な」
皮肉には皮肉で返す。こんなところも、僕たちは変わらない。
しばらく無言で、しかし、彼女の笑顔と僕の安心感と共に河原を沿って歩く。

風の音と、川の音と、木の葉を踏む音と、走っていく車の音。それから、ベンチや各々の場所で談笑する人々の声。さっきよりも鮮明に聞こえてくるようだった。
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