ながれる雲と漂う夏草の匂い
滑らかな緑のビロードのながい丘の
染み出す流れの上に織りなす風景は、
一千一秒の瞬きを赦さず、
息を飲む美しさで車窓を流れてゆく。
....................
「どちらから?」
”From which one? ”
「?」
"?"
ふいに、声をかけられ我にかえる。
ぼんやり外を眺めているうちに
車内はいっぱいで、
気のよさそうな少し小太りな御婦人と、
その孫娘らしい子どもが隣に座っていた。
急に話しかけられて戸惑いながら、
カタコトの英語で返事をしてみる。
「日本から、」
"From Japan,"
「そう、ひとりで?」
"Oh, are you alone?"
「こちらに親戚でも?」
"Is this your relative here?"
「いいえ、休暇で、」
"No, on vacation,"
「そう、ヒースは美しいでしょう?」
"Yes, Heath is beautiful, is not it?"
「気に入った?」
"favorite?"
「ええ、とても。」
"Well, very much."
「そう、よかった、よい休暇を、」
"Okay, good, on a good vacation,"
「ありがとうございます。」
"Thank you."
どこまで走っても
羊にしか会えない一本道
ものすごい勢いで流れる白い雲、
濃い霧の一瞬の晴れ間に
輝く虹の橋、
荒れ地を覆うように
丘一面に咲くヒースの花に
声を失なう。
それはまだ、
人の手に触れられていない未知の
生れたての大地の清々しさに満ち、
異世界に迷いこんだかのようだった。
また訪れる暑き日に永遠を想う…
.................
ヒース(Heath)は、本来はイギリス北部、
アイルランドなどにおける平坦地の荒地のこと。
その荒れ地は 薄い表土と砂でできており、
耕作や牧畜には適さず人口密度は低い。
表土に生えるヒース(heath)やヘザー(heather)と呼ばれる
エリカ属の植物によって
砂の飛散が抑えられているという。