苗代と赤羽がようやく現場に到着。苦戦を強いられていた弓使いの粂(くめ)はイラついていた。
「あんた達遅いっ!弓使いには不利すぎるわ…あのガキ相手には」
「粂さんごめん。ここからは選手交代ってことで、ちょっとあそこの扉を開けっ放しに欲しいんだけど」
苗代が粂に少し申し訳なさそうにお願いした。
「扉ぁ!?なんで」
「ターゲットを外に出す。被害を最小限にするにはそうするしかないから誘導手伝ってよ。
外には既に憐鶴(れんかく)さんが待機してるから」
特殊請負人の3人が遅れた理由がこれなのか――
あの気味の悪い、人間離れをしたガキを外に誘導するために動いていたとは。
憐鶴は既に戦闘スタイルとなっていた。黒衣に黒いベネチアンマスク、それにフードを被っている。
黒い仮面の左側には控えめに装飾がされている。手には対怪人用鉈・九十九(つくも)を持っていた。
ゼノク・本館では苗代・赤羽・粂が連携しながら明莉を外へと誘導する。
弓使いの粂はかなり不利だが、誘導に関しては向いていた。矢を放つ方向を外に向ければいい。
「お兄ちゃん達、強いんだね」
抑揚のない声だった。赤羽は明莉と戦っている。赤羽は肉弾戦に強いせいか、明莉と格闘していた。
小学生とは思えない。やっぱりこいつ、異常だ。
その隙に粂は示された扉を開放した。赤羽はチラ見するとじわじわ外へと追いやる。
「お前の目的はなんなんだ?答えろ」
赤羽、戦いながらも話せる余裕はある模様。明莉は答えた。
「ゼルフェノアをパパと一緒に乗っ取るのが目的だ」
「パパって誰なんだ!?」
「教えない」
明莉は無表情で赤羽にダメージを与える。苗代も明莉に挑むもあっさりやられてしまう。
ゼノク隊員の中でも戦闘力が高い、赤羽と苗代があっさりと負けるなんて。
気づいたら外に出ていた。
明莉は黒い仮面姿の女性を見るなり、ターゲットを変えた。
「黒い仮面のお姉ちゃん、遊ぼうよ」
憐鶴は鉈を構えた。
「いいですよ?あなた…いやあなた達の目的がわかった以上、排除せねばなりません。特殊請負人として」
憐鶴は九十九を発動させる。雷がバチバチと刀身に宿った。
「行きますか」
憐鶴は明莉にいきなり飛びかかる。振り向き様に九十九を明莉に斬りかかるが、明莉は素手で止める。
「お姉ちゃん、なかなかやるね」
明莉は初めて感情らしきものを出した。雷を纏った九十九を素手で止めるなんて、なんて奴…!
そこに突如現れたのは當麻だった。手をパンパンと叩き、明莉を止めた。
「明莉、遊びは終わりだよ。帰るぞ」
明莉はピタッと戦闘をやめた。
「パパ、もっと遊ばせてよ」
「また今度だ」
「あなた達は一体何者なんですか…」
憐鶴は當麻と明莉に問い正す。
「まだ言えないな」
2人は忽然と姿を消した。
「消えたぞ…」
苗代は「えぇ!?」というリアクション。
「長官に聞いてみる必要がありますね、これは」
憐鶴は冷静だった。この畝黒(うねぐろ)家について調べる必要がある。
ゼノク・司令室。西澤は蔦沼に聞いている。
「一体、何を話していたんですか?畝黒當麻と」
「あの男…ゼルフェノアを乗っ取るか、潰すつもりだ。話は平行線に終わったが、うちの技術を渡すわけにはいかない」
「畝黒コーポレーションって明らかに怪しい企業ですよ!?
當麻と明莉は人間じゃないのは明らかだ。あの女の子…あり得ない動きしていましたよ!?鍛えたとかいうレベルじゃない。次元が違いすぎる」
ゼルフェノア本部・司令室。鼎・御堂・彩音は宇崎にある隊員2人を紹介されていた。司令室には梓もいる。
「この2人は…?」
鼎は男性隊員達を見た。宇崎は説明した。
「この2人は新人隊員の吾妻(あがつま)と氷見(ひみ)だ。
訓練生だが戦力に必要だと判断し、急遽任務に参加して貰うことにしたから」
「吾妻信之です。よろしくお願いします」
「氷見翔一です」
「吾妻と氷見は経歴が経歴だから即戦闘可能なわけ。頼もしいぞ〜」
「なんで急に訓練生を?」
鼎は宇崎に聞いてみた。
「こっちも色々とあるんだ、即戦力が必要になったのよ。
ゼノクで長官と畝黒當麻が接触しているからね」
新人隊員2人は「では私達は訓練がありますので」と言いながら司令室を出た。
御堂は宇崎に聞いた。
「室長、どういう意図があるんだよ!?新人隊員をいきなり投入するって…」
「ちょっとね、急にきな臭くなってきたというか。長官と畝黒とのやり取り、PCで見ていたのよ。
どうやらゼルフェノアを潰すか、乗っ取るつもりらしい。阻止しないとな。鼎も因縁ある奴に狙われているんだろう?わかっていたさ」
「室長には見抜かれていたのか…」
鼎は呟いた。
「お前に因縁のあるやつが何してくるかわからないから、用心してるんだ。
拉致以上に、非情なことを仕掛けてくるかもしれない」
「イーディスは非情な奴だよ。あいつは…今でもそうしている」
鼎はイーディスが次に何を仕掛けてくるのか、内心怯えている。
畝黒コーポレーション・ネット配信専用部屋。
Dr.グレアはその部屋へとやってきた。
「イーディス、本当にやるのかい?彼女の公開処刑」
「だから今、セッティングしてるのよ。配信は明日の午後に行うわ。ゼルフェノアのモニター全てジャックしちゃうよ♪
あぁそうだ。なんなら市民向けにもモニタージャックしちゃう〜?街頭テレビジャックしたら人集まるでしょう?ふふふ…」
イーディスは動画配信では2次元キャラでやっている。Vチューバー的な感じだ。自分をデフォルメしてキャラクター化したアバターだが、名前はイーディスそのまま。
動画配信でのイーディスには一定数のファンがいる。投げ銭をする輩もいるくらいだ。
イーディスは不定期だが、人を不幸に陥れるような内容で暗部を暴いている。今回は鼎がターゲットとなったわけで。
「ゼルフェノアには裏がある。鼎に関しては正体を知りたがっている人間がいるから、私が暴いてやるわけよ。
…ま、この組織にはまだ表には出てないこともあるんだけどね」
「表に出てないこととは?」
「ゼノクの地下とか〜?ゼノクの存在を知らない人はまだいるでしょう。
ゼルフェノアの暗部はゼノクにあると言ってもいいわけね。だーけーど、今回は鼎に関してだけ公開しようと思うのよ。市民の反応が楽しみだわ♪」
翌日の午後、鼎と因縁がある女・イーディスの本性がさらに露になることとなる。
第4話へ。