生存確認
 モズ氷♀(dcst)
 2021/2/17 03:34

強い女だと思っていた。力で押さえ付けようにも技術でいなされ、口で言いくるめようにも隙の無い正論で打ち負かされる。天才の名を欲しいままにしていた俺ですら、決して思い通りには出来ない女。それが、俺の好きなひとだった。
今俺の目の前で、嗚咽を抑える事も出来ずに泣き続けるこのひとが、どうして強い女だと思えるのか。如何に強かろうと、このひとはただの女だったのだ。守られるべき、か弱い、ただの女。

「抱いて、ください」

喉が立てる音の隙間に混ぜられる、絞り出す様な苦しげな声。それが紡いだのは、昨日までの俺が聞いたなら小躍りでもする程に喜ぶ筈の言葉だった。それを、ガーゼと包帯だらけの、腕一本すらまともに動かせないからだと、涙にまみれ苦悶の表情を浮かべたこのひとから、聞く事になるなんて思いもしなかった。
壊れたようにそれだけを繰り返す。濡れた瞳に俺を映して、俺が頷くのを、俺が手を伸ばすのを待っている。このひとに望まれている事は何でも叶えてあげたいのに、叶える訳にはいかなかった。

俺が巻き込んだ。
俺は最低だけど強いから。このひとは女だけど強いから。そんな浅い考えが、このひとをこんなにも傷付けた。
誰にも触れられた事のないきれいなからだを、無理矢理ひらかれたその絶望は、どれほどのものだっただろう。

「モズ君、お願いです。私を…」
「……」

こんな形でその言葉を、言って欲しくなかった。言わせてしまった。

「…ごめんね、氷月…」

伸ばした手を、投げ出された手に重ねる。指に指を絡めて、ほんの少しだけ握った。
このひとに触れるのは、きっとこれが最後。

「……ごめん」

ころしてやる。このひとをこんな目に遭わせた奴らも。
全ての元凶になった、俺自身も。

手を握り返された気がしたけど、きっと気のせいだ。憔悴し切ったこのひとに、そんな力がある訳がないから。

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