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傾げる


傾げる


気がつくと首が微妙に右斜めに傾いてる
いつからだろう
この癖が染み付いたのは
いつ頃からだろう
この仕草を癖と認識したのは

気がつくと斜めっている
何かしら考え事をしている時のアピールかな
周囲というよりは自分への

歩きながら駅とか車のガラスとかで「あぁ」って、なんだかその姿に納得してみる
なにをそんなに考えているんだか

まるで他人事みたいに

そんなんだから自分にアピールをしているのかも
「わかってんの?」って

そうして、こうしてバスを待つ間もアタシは微妙に右斜めに首をかしげている
今日のアタシの専らのテ−マは「ネ−ミングセンスが欲しい」で
やはり今日のアタシも現実とのお付き合いが噛み合っていない感じがする
きっと明日も、そのまた明日も
きっとアタシはアタシにアピールをしている



一瞬と天気


一瞬と天気



ああ、今あたし一瞬何も考えてなかったな
と気付いた瞬間にその空間は途切れる

もう一度、その空間へ行こうとしても
意識してしまっては、なかなか視覚や嗅覚とかが離れなくて
電車の振動、小鳥の囀り、甘いお菓子の匂い、過敏に感受する視線

一瞬、本当に一瞬
ボ−ッとするのって難しい

コンセントの穴とか
出来れば頬を撫でる風の中とか
深呼吸一つで感覚的に繋がっている何処かに行ければいい

あたしは、電話ボックスの受話器は深呼吸一つで誰かの深呼吸の中に繋がれると思ってて

雨の日の薄暗い空の下
佇む公衆電話のボックスに傘から顔を覗かせて
ちょっとシリアスな人間味のある映画のワンシーンのような
何処からかジワジワと肌に触れる哀愁に心が弾む

そして、そこにあったかもしれないドラマの切れ端っぽいものを目で探してる

そして、ああ受話器の中に行けたらなとか考えてしまう

一瞬、一瞬なんだけれどね、行けたらね
意識してちゃダメなんだろうけどね

傘を持つ右手の冷たさに意識が向かう
明日の天気は何

ああ、今あたし一瞬何も考えてなかったな

それが、その瞬間が大好きで

繋がらない公衆電話の受話器を耳をあてて
機械の冷たい音が鼓膜を掠めたら瞳を閉じたり

ああ、明日の天気は何だろう




あの空は遠く

あの空は遠く



他人の世界を垣間見るというのは疲れる
何気ない仕草、会話、その他諸々において小さな隙間から覗く世界はどうしても光を纏っていて
チカチカとチカチカと、僕の思考の中を行ったり来たりするんだ
眩しい、と言えばその通りだけど
その言い方をするのはどこか悔しい感じがする
瞳を閉じてみたところでその光が見えなくなるわけでもなく
それどころか一層僕の心を窮屈にする
そして、なんだか重たいものが喉まで迫って来てベッタリと張り付いて発する言葉一つ一つにヌメッとした嫌な本音を分け与えようとする
梅雨時の湿気た小さな白い部屋に独り取り残されたかのような、感傷的な黒い塊
憤りにも似た、脱力感

小さな隙間ならまだいい

ハッキリとしたカタチでまざまざと思い知らされた時の疲労感は、辛くて
込み上げてくるものの存在が情けなくて



『今日、ど〜したぁ?』

僕はバタン、と勢いよく携帯を畳んでベッドへと放った
携帯はボスンッと毛布へと吸収されていった

今日のメールは目に悪い、心にも悪い
一番悪いのはメール相手が悪い
ああ、瞼の奥がチカチカする
情けない

"なんで怒ってるの?"

放課後の日下部の言葉が脳内で記憶で身体で
まるで血液のようにドクドクと流されて繰り返されて、とめどなく

"…別に"

素っ気なく返したつもりの言葉、だけども自分で思っていたよりも発せられたト−ンは低かった
ヌメッとした空気
その場から走り去りたい衝動
プスプスと音をたてて喉の奥が、焦げ臭い

「はぁ……」

あの後、その場から走り去るわけでもなく気まずいものを創りだしてしまった僕は

"……浮かれてんじゃね−"

それを背中に帯びたまま、苦笑する日下部の傍から離れた
正確には逃げた

「はぁ……」

気まずい
明日気まずい

どうして時間が経てば経つ程に気まずさは妄想を含んでゆくんだろう
しかも、まるで被害妄想のようだ最悪だ
喉がイガイガする

湿っぽい部屋の中で毛布に沈んだ携帯
学校での重みを引きずりながら帰宅した僕に届いたのは日下部からのメールだった

『沈んでいます

アナタの才能のせいで』

こんな返信をしたら日下部はどう思うのかな
先程メールを寄越した相手の苦笑いを思い出す、痛い
携帯までの距離、近い、遠い、痛い

日下部は変な人だ
今日なんてブッチギリで遅刻してきたと思えば
髪の毛ボサボサ、半泣きで膝小僧にはうっすらと血が滲んでいた
息を切らして肩を上下させてヘロヘロな日下部
正直、酷い有様だ

唖然とする僕にエヘヘ、なのかゲヘヘ、なのかもよく解らないくらいにゼェゼェになりながら精一杯の茶目っ気と見苦しさを向けながら日下部は言った

"紙…ひこ〜きっ………いいよね…!”

よくない
意味がわからない

自己完結して机に突っ伏して頭がボサボサな日下部
同じ部活、写真部部長の日下部
空の写真ばかり撮ってる日下部
変な人
凄く綺麗な写真を撮る人
変な人、変な人、羨ましい人
チカチカする

日下部の写真が、コンクールで賞をとったと顧問の江口先生がが皺だらけの顔を更に皺くちゃにして報告をしたのはその日の放課後のことだ

"なんで怒ってるの?"

おめでとう
やったな

言えなかった

日下部が空の写真ばかりを撮り続けている理由を僕は知っている
空が好きだ
それもあるのだと思うけれど

不機嫌になってゆく僕
大人になりたい、なりきれない無表情
視点が下がる
言えない
おめでとう
日下部の笑顔が
僕を捕える
言えない

軋んだドアをゆっくりと開いているみたいだ
このまま開くべきか、やめるか迷っているような音
鈍い音

湿った部屋で脳裏に浮かぶ日下部の苦笑
僕の思考の中を行ったり来たりする

明日、気まずい

今すぐメールすればいい
返信すればいい
ごめん、て
日下部からのメール
これはチャンスだ

なのに
携帯が、遠い遠い遠い

日下部の苦笑が
近い近い近い、痛い

また、ドクドクと嫌な記憶が循環しだした時だった
ベッドの上の携帯が振動して存在を主張した
僕は思わす椅子に座りながら身構えた
もしかして、という思いがあったから

焦る
無視したい、携帯を掴みたい
矛盾してる
謝りたいのにいざとなるとこうだ
相手はもしかしたら日下部じゃないかもしれない
でも…日下部かもしれない

ベッドの上で振動していた携帯がパタリ、と動きを止めて着信ありを告げる小さなエメラルドグリーンの光を点滅させる
早く、早くと言われているかのようだ

僕は目線を携帯に向けたままゆっくりと椅子からおりて携帯を掴んだ
ギュッと掴んだ

日下部じゃなかったら
日下部だったら

プスプスと音をたてて喉の奥が、焦げ臭い

"なんで怒ってるの?"

怒っていたわけじゃない
瞼の奥がチカチカした
僕は日下部の写真が好きだ
だけれど、違うんだ
日下部が空の写真ばかりを撮り続けている理由を僕は知っている
梅雨時の湿気た小さな白い部屋に独り取り残されたかのような、感傷的な黒い塊
憤りにも似た、脱力感
彼女の才能




ああ
これ以上空に近づいてほしくない、なんて言えるわけもなくて




僕は、小さく息を吸い込んで握りしめていた携帯をゆっくりと開いた


紙飛行機A

紙飛行機A


夜中に目が覚めた

外は雨が降ってテレビからは心地良い耳障りなノイズが聞こえて…‥

みたいなシチュエーションなら

少しはこの状況も様になるのに

間抜けにもベッドからずり落ちて

私の胴体の下には握っていた筈の携帯が開いたまま押し潰されて

私の霞んだ視界の先には

蛍光灯が不気味に揺らめいていて

そのまま顔面めがけて落ちてくるんじゃないかと一瞬そう思った

布団を片手で掴んだまま床に放置している私の身体は

起き上がってベッドに張り付く気も無いらしく

携帯を胴体の下から救出して

ただただ

落ちてくることのない不安定に揺らめく光を見つめていた

赤ん坊がブラウン管から聞こえてくるノイズに心を落ち着かせるのは

胎児の時に母体の中で聴いていた音に似ているからだとか…だったような、違ったような

とかボーッとそんなことを考えていた

やがて考えることに飽きた身体は

身体を放置したまま

再び

意識を闇に翔ばした




目を開いた時には

太陽は昇っていて

カーテンの隙間から木漏れ日に

外から聞こえる鳥たちの囀りとかいう朝のお決まりのシチュエーションで

部屋の中の世界は私を包んだまま

姿を変えていた

変わっていないのは

床に放置している私の身体だけで

視界の先の蛍光灯は

朝の木漏れ日の中でしっかりと己を天井に固定しながら

私を見下ろしていた


何かの夢を見た

夢の中で紙飛行機が飛んでいた

あれは

私の見ている光景だったのか

私自身だったのか

わからないけれど



下に仰向けに寝転がっていて

正反対の状況なのは確かだ

意識はこっちに戻ってきたんだ

こっちの世界は着実に時間を重ねていて

携帯を開いた瞬間に私の遅刻は決定で

放置していた自分を急いで叩き起こして立ち上がる

床に寝ていたから体が痛いとか

寝癖で頭がボンバーだとか

持っていくバッグが見当たらないとか

そんな風に脳内フル回転で

あの異世界の紙飛行機のことは頭から吹っ飛んで

不器用に地を踏みしめ慌てて転んで半泣きで家から出た

こんな日に限って空は快晴で

こんな日に限って私は遅刻で

こんな日だから全力疾走で風を肌に感じて息をきらす

どうやら

この世界では

憧れの空にはまだ手は届かないようだ
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