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誕生日の話

特に流れも気にせず、ただ書きたさに負けて書いた言わばスピンオフに近いもの

(普段は言えない事だから精一杯の感謝を君に!)

【10/25 00:00】
夜も遅くに震えた携帯を手に取る。
なんだろう?と少し疑問符を浮かべていた秀平は、『誕生日』『バースデー』と並んだ画面に小さく納得の声を上げた。
「今日、誕生日だったっけ」
ジョークでプレゼントをねだる事はあったが、実際日付など大して意識していなかった。当の本人はメールを受け取って、やっと思い出したところだ。
「みんなマジメだな〜……」
メールボックスにはバスケ部の先輩や同級生のアドレスが並んでいた。
一番上から順に開封していく。
「わー、さすが味気ないなあ。あ、でもこっちは絵文字多めだー。……ふっ」
一通の画像つきメールに、小さく笑いを零す。
タイトルに『誕生日のアナタにスペシャルスクープ写真をプレゼント!?』と記されたそこには、両手にスイーツを携えて鬼の形相でそれを食べる担任の姿があった。
「……見てたらお腹空きそうだなー、寝よっかな」
ひとしきりメールを確認し、秀平はボックスを閉じて枕元に携帯を置くと布団に入った。
今年は楽しい誕生日になりそうだ。

【10/25 12:40】
「ハッピーバースデー、秀平くーん!」
「どうしたの、小此木さんをはじめとするバスケ部御一行様で」
昼食の時間、D組の教室に移動していた秀平の下に同じ部活の面々が現れた。
「別に俺は来たくて来た訳じゃねぇよ」
「ふーん、じゃ帰ってもいいんじゃない?」
「まーまー!富士だってバスケ部の一員だろ?秀平もそんな冷たく言うなって、な?」
険悪になる空気を、広樹が先輩らしく巧みに宥める。
「第一何だとはなんだ?小此木が既に言っているだろう、俺達はお前の誕生日を祝うためにこうして集まったんだ。それ以外に何があると言うんだ」
「そうだよ秀平くん!じゃじゃーん!!」
効果音をつけて、さやかが後ろに隠し持っていた箱を机に置く。
希依の手によって開かれた中には、小さなホールケーキ。
「やっぱり誕生日って言ったらケーキだろ?だから、バスケ部のみんなでお金出して買ったんだ」
「……まあ、祝い事だからな」
「しゅーへー俺も!俺も出したから!」
ハイ!と一緒に昼食を取っていた湧真が高々と手を挙げる。
「……みんなホント、暇だよね」
「なっ……!…………素直に喜べばいいじゃねーか、めんどくせぇ奴だな……」
悪態をつきながら清々しく笑う秀平の様子に、富士は視線を横に向けた。
「まったくだな、顔と言葉が一致していないぞ。何故そうなるんだ」
「さあ?」
「でもでも、バースデー大・成・功!ってかんじ!?」
「秀平、今日は放課後部活じゃなくて、そっちに顔出してあげてな」
「そっち?」

秀平が広樹の視線の方に顔を向けると、ニヤニヤとした目が二組、彼を見つめていた。1人は顔を逸らしている。
「俺達友達だろ……?フッ、つまりはそういう事さ」
「放課後は改めて教室でバースデーパーティー!ってコト!」
「…………だとよ」
三者三様の言葉が返ってくる。
「ふーん、じゃあプレゼント楽しみにしておくね。あ、先輩達も1on1のプレゼントいつでも待ってるから」
「はは、欲張るなぁ。そのうちな」
「俺も同じ答えとしておこう。もうこんな時間か。俺達は教室に戻るぞ」
「たかしくん、あたしたちも戻ろっか!じゃーね!」
「あっ、おい小此木やめろ引っ張るんじゃねぇ!!」
富士だけは半ば引っ張られる形で、部員達は各々の教室へと戻っていく。
「んじゃ、後でね」
ケーキの箱が入った袋を下げて、秀平も教室をあとにする。
悪態をついてみても、祝われるというのは悪い気がしないものだ。ほんの少しだけ、足が軽いような気がした。


【10/25 放課後】
「改めましてー、ハッピーバースデー!!」
パン!と小気味のいい破裂音が教室に響く。
「で、早速プレゼント!まずは俺から……」
湧真が机の下から取り出したのは、比較的安価なバスケットボール。
「しゅーへーの一番好きなものってこれっしょ?高いのは買えなかったけど」
「ホントに?さすが篝くん、よくわかってるね。ありがと」
ワクワクした目の湧真に、秀平は感謝を述べる。褒められた湧真はVサインをしてみせた。
「続いては俺でーす。写真ばっかだけどさ、俺的にこれが最高だと思うんですよ」
文良から渡された紙袋を開けると、フォトフレームが入っていた。
夏の日に掃除をさせられた時、文良を除く3人が遊んでいるのを文良が手前で指差して笑っている写真が収められている。
「この4人のベストピクチャーを探した結果、それに落ち着きましたードンドンパフパフー」
秀平も、あの日の事はよく覚えていた。
「ありがとう沢木くん、家に飾らせてもらうねー。で、平良くんは?」
「……ねえよ」
「またまたー、平良先生ってばあまのじゃくー」「だって平良、わざわざ」
「…………ねえよ!」
宵一郎が2人を睨む。
「で?平良くんのプレゼントは何なの?」
「だから…!ったく…わかったよ」
そういうと携帯を取り出して、何やら操作する。
宵一郎が携帯を置くと、今度は秀平の携帯が震え出した。メールを受信しているようだ。
「期待すんな、そして今開くな。家帰ってからにしろ」
「ふーん?まあ開くけど」
忠告をさらっと流し、「待てって!」の声を素通りしてメールに添付されたファイルを開く。
『ハッピバースデー……』
誕生日を祝う複数の歌声が響く。
『ハッピバースデーディア……』
自分の名前。名字や名前、敬称などもバラバラ。秀平のために歌われた歌。
「……しょぼくて悪かったな」
「何言ってんだかー。このために綾崎の知り合いにも頼んで歌って貰ったくせにいけずなんだからー」「なー」
湧真と文良が声を揃える。
「そうだよ、俺は纏めて音源にしただけだ。先輩とか同学年の奴らとか、合唱部の先輩からみてえなもんだよ」
宵一郎はばつが悪そうにそっぽを向いた。秀平は画面を眺めている。
「平良くんなら『誕生日なんて毎年来るだろ、阿呆らしい』とか言うかと思ったのに意外だなー」
「馬鹿にしてるよな、それ」
「被害妄想じゃない?お疲れ様、大事に保存してたまに平良くんの前で流すね」
「おい」「ありがと」「……まあ、誕生日おめでとう」
「なーなー、さっき貰ったケーキ食べようぜ!」「篝ナイス提案!異議なし!」
誕生日を祝ってもらうなんてめんどくさい事だと思ってたけど、案外悪くないかもしれない。
秀平の口元は、自然に微笑んでいた。



【10/24 23:58】
「……さすがに馬鹿みてえ」
彼はそっと友人宛のメールをごみ箱に送り、自分宛に新たにファイルを添付したメールを作成した。
「柄じゃねえよ、誕生日祝うなんてのは……」
1人呟いて、送信を終えたパソコンの電源を落とした。
(素直になるには、もう少し君を知るべきだ)


まあ遅刻したけど息子と(半ば無理矢理だけど)仲良くしてくれてありがとう秀平くんという話だったんだが親でもないのに書いてよかったのかは謎

まつり

「!?誤解に決まってるだろ!です!」
「ふぅん……?よろしい、その辺もうちょっとkwsk」
その夜鍵打家では、末の弟・涼介と姉・萌の情報交換が行われていた。
事の始まりは長男と涼介の会話である。二人はカササギ祭の店について話をしていた。兄が出店する事も知っているし、涼介がそれを手伝う事も知っている。
だが、どうにも萌の知っている話と噛み合わないのだ。色素の少なそうな同級生が言っていた内容と、涼介の予定が噛み合っていないのである。
何か食い違っている。
「だから、おれは兄ちゃんの店を手伝うし、昴幸とかは一緒に回れるかもしれねーけど、少なくともおれも昴幸もあいつらと回るつもりなんかねーよ!さて……財部!と木暮は2人で回るんだ、あいつはそう言ってた!」
自らの計画の誤算を悟った萌はさっさと弟に内情を聞き、そしてくつくつと笑った。彼女が勘違いをしてるんだとすれば、なるほど合点がいく。
「どーすんのぉ木暮ッティすっかりあたし達及び愉快な仲間達と回る気満々ですけどー?」
「そ、そもそも何で姉ちゃんがそれを知ってるかわかんねーし一緒に行くことになってんのかもわかんねーけど、おれのせいじゃねーし!」
そう言うと涼介はふいと双子の姉から顔を背けてしまう。
涼介とすれば一緒に行くなんて事になってたとは思いもよらなかった訳で、そこから逃げる理由はあれど、クラスメイトの勘違いに付き合って一緒に行ってやる義理も理由もないのだ。
彼は顔は背けたまま横目で姉をチラリと見やる。萌は口元に手を当てて、何か考え込んでいる様子だった。
「おれには関係ねー」と慌てて目を逸らし、でも気になってまた目を向けた。
寓話のシャム猫のように口角を上げた萌の目が、彼を見ていた。
「涼介、『クラスの女子とも面倒な事にならず友達に恩を売り何よりメンドクサーくない計画』、乗らない?」
「……そんなん、あるのか」
涼介が恐る恐る向き返る。一呼吸置いて、萌は言葉を発した。
「みぃんな『行かない』んじゃなくて『行けない』としたらイイコならわかってくれるでしょうねぇ」
「?……はっきり言えよ」
「要はみんなその日に『急用で行けなく』なっちゃえばいいの。お仲間はきっと気付くでしょうけど木暮ッティは『イイコ』だからきっとあたし達を心配してくれるでしょうねェ」
「!そ、そういう事か」
萌の妙案に涼介は瞳を大きくさせた。普通の人間にはそうそう通じない作戦だが、涼介にも思い当たる節があったようである。
「じゃ、姉ちゃんよろしく」
「何言ってんのそっちもそっちでお仲間のところに当日メールする簡単なお仕事がごさいますー。物的証拠は多いほどいt、じゃなかった人を騙すにはいいし、あでも当人はわかってない方がいいから友達だけでいいわ」
「お、おう!任せろ!」
「はいはい交渉成立契約完了!さっさと済ませておいてねーっと」
そういうと萌はおもむろに立ち上がり、携帯のボタンをいじりながら部屋に向かっていった。
「ピピピピーであーもしもしあたしあたし大丈夫これ流行の詐欺じゃないから。あの計画の件なんだけどー……」
遠ざかっていく姉をしばらく見守って、涼介は携帯を取り出し昴幸へのメールを立ち上げた。今回の計画だけでなく、友人はそもそも巻き込まれている事すら知らないのだ、早く教えておくべきだろう。
『なんか、さてんが木暮を祭に連れてく話がめんどくさい事になってた……』


約束の日、約束の時間の少し前。
ベルガモットの携帯に一通のメールが届いた。
『ごっめーんあたし達2人とも用事入っちゃってそっち行けなくなったわー』
「まあ……えぇっ!?どどど、どうしましょう女性はわたくし一人ですの!?と、とりあえず浴衣も着てきてしまいましたし、待ち合わせの場所に向かいましょう!」
自身の計画がとっくにひっくり返されているとは知らず、ベルガモットは顔を青くした。
「そ、そうですわ!お祭り会場ですもの、何かあったらどなたかにお声をかければいいのです!頼りはありませんが、男性だって三人もいますもの!」
下駄をコツコツと鳴らし、人の波に負けないように待ち合わせの場所へ向かう。

待ち合わせ場所では、同じように『悪い、行けなくなった』というメールを受け取り、頬を掻いている佐典が待っている事を、彼女はまだ知らない。

なぜ保存されないのか

なぜツイッターにあがってくれないのか

もう一枚

修正

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これでどうだ!!
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