ふっと目が覚めた、真夜中。
裸の肩が、冷えていた。
け怠い体を引き起こし、隣で眠っているオトコの顔を見つめる。
少しだけ鋭い目つきが、瞼を閉じるとあどけなくなるなんて、僕は今まで知らずにいた。
満腹の犬の様に、満足そうに緩む口元に、思わず笑みがこぼれる。
下着を探そうと、起こさないように、そっと小杉の横を抜け出ようとした僕の腕を掴む大きな掌。
「…どこに行くの?…」
眠気が半分、混じった声で、僕を引き止める。
「あ、し、下着を…」
「ぞんなん…いいから」
ぐい、と抱き込まれ小杉の胸に寄り添った。
「こうしてりゃ、暖かい」
僕をがっちりとホールドして、安心したのか、すーっと小杉の寝息が聞こえてきた。
「僕はお前の抱き枕じゃないぞ?」
半分憎まれ口、半分照れ隠しで呟いても、返事は返って来ない。
すっかり、夢の住人だ。
小杉の綺麗に筋肉の付いた腕に巻き込まれる様にして、抱きしめられると、さっきまで抱かれていた肌が火照って、下腹が疼(うず)く。
僕は、つくづく思う。
同性にしか欲情しないのだと。
けどーー
小杉は、違う。
付き合うことはなくても、女性に困らなかった小杉は、ノンケで、僕とは相容れない人間だったはずだ。
なのに、昨日の告白かどうかわからない気持ちに流されるまま、小杉に抱かれてしまった。
僕らはどうなっていくのだろう。
望んだはずの愛しい腕のなかで、僕はまんじりとせずに、身動きもとれなかった。
ーーすっかり雪は止んでいて、積もるかと思っていたのに、やはり3月の陽射しは、その雪をすっかり溶かして、街は元どおりの姿を取り戻していた。
お互いに眠い目を擦(こす)り、モゾモゾと服に着替える。
どことなくぎこちない小杉の態度に照れ臭さだけではない、何かを感じるのは僕だけだろうか。
痛む腰を気にしながら、仕事に行く用意をしていると、小杉が珈琲を入れてくれていた。
「飲んでけよ」
僕といつものように目を合わせ様として、無意識に目を反らす小杉が可笑(おか)しい。
「…なぁ、昨日の」
「無かった事にして欲しいのか」
小杉が、ギョッとした後に、真剣な表情(かお)になった。
「そんなんじゃ無い…けど…まだ、俺の中でハッキリしてない」
「…そうか」
無かった事には出来ないが、どういう感情で僕と向き合えばいいのか、決められないんだろう。
「珈琲ごちそうさま」
スーツのジャケットが、少しだけ皺になってるのを気にする振りで、小杉に背を向ける。
期待して無かったわけじゃない。
『彼女』を、残して僕を追いかけて来てくれた小杉に。
僕を恋愛対象として見てくれているのかも知れないと。
僕の体を唇で辿り、手のひらや、指で、触れ、焼けるような小杉が僕の中に押し入って来た時の、あの、小杉の無我夢中の顔に。
けど、昨日まで自分はノンケだと思っていた男だ。
同性を抱いた事で、複雑な感情があるんだろう。
朝、我に帰った小杉に家から蹴り出され無かっただけでも、まだ、この男は優しいのかも知れない。
コートに袖を通そうとして、背中から小杉に抱き込まれた。
本当に、心臓に悪いオトコだ。
「…ちゃんと、ハッキリさせるから、だから、俺の前からいなくなるなよな」
ぎゅう、と抱きしめられ僕は、後手で小杉の髪を撫でてやる。
昨夜も思ったが、見かけより、柔らかな素直な髪だ。
「分かってるよ、大丈夫だから」
その答えが出るまでは、お前のそばにいるから。
答えが出たら、僕らは、どうするだろう。
降ってきた軽いキスを受け止めながら、そっと目を閉じた。