担当:高上
パンッ
と乾いた音をたて、ボールがミットにおさまった。
「ナイスボール、三橋」
西浦のキャッチャーこと阿部が三橋にボールを投げ返す。
「う、うおっ」
三橋はオドオドしながらも、誉められて嬉しいのかニコニコと笑った。
しばらくこのやりとりが続けられ、日も暮れかけたころ、ようやくあがりとなった。
「おつかれ、三橋」
「う、うん…えと…あ、阿部姫様も…」
三橋がそう言うと阿部は怒りだした。
「だからその呼び方はやめろって言ってるだろ!!身分は王女でも今は西浦野球チームのメンバーなんだから!」
「そ、そうだね。じゃあ阿部…くん」
「それでよし」
阿部はそう言うとニカっと笑った。
「は−い。片付けはじめて−!!」
西浦王国の王。モモカンが声を張り上げる。
そんな練習後の、どこか達成感に満ち、のんびりした時が流れる。
そんな時に、奴は来た。
ヒュー ガシャン
「あれ?なんか眼鏡が落ちてきたよ」
「どれどれー?ホントだー!なんでだろ?」
栄口と水谷がしゃがみこんで、不思議がりながら地面に落ちた無惨な眼鏡を見ている。
すると突然田島が、空を指差しながら叫んだ。
「なんだあれー!?」
そして田島の指の先には…
ざっと百人はいる秋丸が空から落下傘で降ってきた。
あまりに突然の出来事かつ信じられない展開に、西浦ーぜはしばし固まった。
「いいねーぇ」
「いいねーぇ」
「いいねーぇ」
「いいねーぇ」
操られているのだろう、無数の秋丸は同じ事しか言わない。
「きゃあぁあぁあぁぁあ」
とその場の空気を引き裂くような悲鳴が響き、固まっていた西浦ーぜは覚醒した。
今しがた悲鳴がした方を振り向くとそこには…
阿部と、阿部の腕を掴んでいる黒いマントに身を包んだ榛名がいた。
「離せよ」
阿部が榛名の腕を振り払おうとする。
が、榛名の握力が強くなかなか離れない。
「あ、あ、阿部くんッ」
三橋がよろよろと阿部と榛名に近づく。
「おっと三橋、これ以上近づいたら隆也がどうなるか分かるよな?」
「いって…」
榛名は阿部の腕を掴む力を強めた。
痛みがはしったのか阿部が顔を歪める。
「うぅぅ…」
三橋はなすすべもなく立ち止まる。
「隆也はもらったぜ、じゃあな三橋」
榛名はニヤリと笑って阿部を抱えたかと思うと、秋丸のみの人混みの中に入り、秋丸が退いたかと思ったら跡形もなく消えていた。
グラウンドにしばしの静寂が訪れた。
「阿部が…拐われた」
最初に口を開いたのはキャプテンこと花井だ。
その花井をかわぎりにみんな慌て始めた。
「ど、ど、どうしよう。でもなんで榛名さん阿部を拐ってったんだろう?」
「そんなの知るかよ!!てか阿部はお姫様だろ?これって国問題なんじゃねーか」
栄口と泉が二人してあわあわしている。
そんならーぜの中で三橋は1人別の事を考えていた。
(どうしよう…俺阿部くんがいなかったらまただめピに戻っちゃう…)
三橋は前いた国の野球チームでの辛い過去を思いだし、涙ぐんだ。
三星王国での出来事だ。
(俺…阿部くんいないとダメなんだッ…)
三橋は両手を強く握り、意を決して言った。
「お、おれ阿部くんを助けに行くッ」
他のチームメイト達はびっくりして言葉を失った。
あの内気で卑屈な三橋が自分から、しかもあの榛名さんから阿部を助け出すと言っているのだ。
時は人を変える。
「じゃあ俺も行くー!」
皆が呆然としている中、田島が当然のように名乗りをあげた。
「阿部いなかったら困るもんな。な、三橋」
「た、田島くんッ」
正直他のらーぜ達は心配だった。
この天然二人に任せて果たして阿部ば帰ってくるのか、はたまたこの二人が帰って来れるのか…。
「じゃあ、俺も行くよ。二人だけじゃ心配だしね」
栄口が人の良さそうな笑みを浮かべながら言う。
栄口の発言で花井はホッと胸を撫で下ろした。
副主将の栄口が一緒なら安心だ。
栄口が世話好きで本当に助かった。
三橋は、さ、栄口くん優しい…!と感動している。
すると今まで黙っていたモモカンが皆を見回しきいた。
「さて、パーティを組むにはもう1人欲しいとこなんだけど、誰かやる気のある人はいない?」
「俺…行きます」
そこで名乗りをあげたのは……
つづく