前のお題の続きです。随分前すぎて忘れてるかもですが(^^;
ともかく、いっくぜー!!!
1(ジョイス)と6(カルミナ)
SS「ミルクセーキ」
「ジョイス! わたくしのリボンを知りませんこと?」
聖歌学院の最上階、さんさんと日差しが降り注ぐ中で、カルミナ・ラウラ・フルティオークの声はよく通った。
時は午(ひる)の刻。聖歌学院の午前中の授業も終わり、生徒たちが昼食を摂る頃合いである。
むろん、学院長の娘であるカルミナは青空の下、爽やかな風に揺られ優雅な昼のひとときを過ごすのだが、
「リボン? 見てないけど」
世間では第一の歌い手(プリマ・カンタンテ)と呼ばれ崇められる少女にしては、珍しく慌てているのである。
大窓を背にして置かれた机の引き出しを片っ端から開けているが、どうやら探し物は見つからないようだった。
「ジョイス、わたくしのリボン――」
「だから知らないってば」
パタパタと部屋を駆け回るカルミナに呼びかけられて、ジョイスは紅茶を淹れる手を止めた。
ひょんなことからカルミナの身の回りの世話を任されたジョイスは、今年やっと10になる少女のワガママぶりに翻弄される毎日である。
やれ紅茶が冷たいだの、やれ料理にニンジンは入れるなだの、服が気に入らないだの、数えても数えきれない程の文句を経験してきたジョイスは、そろそろ少女の焦りが怒りに変わって自分に向かってくる予感がしていた。
「…だいたい、ジョイスが悪いんですのよ! このお部屋の掃除が行き届いていないから、見つかるものも見つからないのです」
予想通り、怒りの矛先はくるりと向きを変えてやってきた。
「確かにオレはこの部屋を掃除した。でもリボンなんか見なかったぞ」
「そんなはずはありません! 現にわたくしのリボンがなくなっているのですよ!」
「リボンなんていくらでも持ってるだろ?」
「あのリボンでないとダメなんです!」
ため息まじりにかけた言葉に、カルミナはふるふると首を振った。
少女のワガママぶりはいつものことだが、今日は少し様子がおかしい。
への字に曲がった口元は感情を無理矢理押さえつけているようにも見えて、ジョイスの足は自然とカルミナの側に向かっていた。
「…どうした?」
「――っ…」
自分より頭一つ分小さい顔を覗き込もうとすると、カルミナははじかれたように飛びのいた。
「なんでも…なんでもありませんわ」
そのままきびすを返して窓際につっぷしてしまう。
窓は開け放たれていて、そこから吹き込む風が少女の髪に結ばれた赤いリボンをなびかせていた。
その光景を見ているうちに、ジョイスはふと思い立って部屋を出た。
外に控えていた侍女に口早に伝える。侍女は不思議そうに首をかしげつつも、希望の品はすぐに揃えてくれた。
「ほいよ」
部屋に戻ったジョイスは、つっぷしたままの少女の横にグラスを置いた。中には白い液体が入っている。
卵と牛乳を混ぜた飲み物。ミルクセーキである。
「好きだろこれ」
「……別に」
ふてくされた声は窓の外に向けられていた。そのまましばらく待ったが、大好物の飲み物に手をつける気配はない。
ため息を1つ、ついた。
「…どんなリボンだ?」
「…白くて、レースの縁取りがあります」
「それだけ?」
「あと…歌い鳥(エリフィア)の模様…」
「以上?」
こくりと頷いてから、少女は我に返ったかのように振り向いた。そのまま上目遣いでおずおずと、
「訊かない、んですの?」
「何を?」
「…理由です。なぜそのリボンが必要なのか、とか気にはなりませんの?」
少女の机の引き出しをあさりながら、ジョイスはああ、と納得の表情を浮かべた。
「そんなのオレが知ってどうするんだ?」
「えっ」
やがて、引き出しをあさるジョイスの手がピタリと止まる。
満足そうに口元をほころばせて、
「人の思い出は勝手に荒らすもんじゃない、それに――」
その手に持った白いリボンが、ふわりと揺れた。
「探し物は、案外近くにあるものだ」
少女の目が大きく開かれ、すぐに細まった。
「…どこにありました?」
「引き出し。隙間に引っ掛かってたよ」
気づけよ、と笑うジョイスに、カルミナの頬はみるみる真っ赤になっていく。
「…あれだけ取り乱したのがバカみたいですわ」
「なーにー?」
「なんでもありませんっ!!」
カルミナは窓に置かれたミルクセーキを手に取ると、一気に飲み干した。グラスを勢いよく置いてこちらを見た目は、強い光を宿していた。
「おかわり」
「…は?」
「だ・か・ら…!!」
おかわり、という大声に逃げるようにして部屋を出たジョイスは、ドアを背にしてくすりと笑った。
――あの調子なら、あと5杯はいきそうだ。
牛乳の飲みすぎで苦しいのを我慢する少女の顔が目に浮かぶようだった。
「…まぁ、いっか」
いつも通りの彼女が、一番彼女らしい。
そう思って、新鮮な卵と牛乳を手にいれるべく階段を下りていった。
―――――――
少女は窓際につっぷした。横には空になったグラスが置かれ、真昼の陽光を反射して輝いている。
風が、髪につけた赤いリボンと手首に巻いた白いリボンとをなびかせた。
手首のリボンを見る。小鳥が飛び立つ様子が細かく刺繍されている。生地も滑らかで、一級品であることを感じさせた。
まだミルクセーキの甘さが残る舌で、少女は静かに呟いた。
――おかえり。
end.
はい、ジョイスとカルミナでお題1つ消化です!
まぁ…なんというか、探し物を手伝う世話人の話です(笑)
ミルクセーキはジョイスがカルミナに作ってあげた最初の飲み物です。ワガママ姫はこの味にはまっちゃったみたいですね。
ジョイスとカルミナは…姉妹というか兄妹というか、ワガママいっぱいの彼女をジョイスが大人目線でお世話してるイメージです。
なんだかんだでカルミナもジョイスのこと大好きなんですけどね。まぁツンデレですから(笑)
ここまで読んでくださりありがとうございました!